内視鏡トレーニングセンター

マニュアル:上部消化管内視鏡検査手技

初心者のための上部消化管内視鏡検査手技

九州医療センター 内視鏡トレーニングセンター Ver6 2021

文責:原田直彦
注意:

本撮影手順は基本的には肛門側から口側へと撮影する「引き抜き法」であり,成書で紹介される口側から肛門側へと撮影する手順ではありません.長所・短所を理解して施行してください.(本手順に習熟してから自分の力量に合わせて改変して下さい。)
長所:

肛門側から連続的,系統的に撮影するため,オリエンテーションがつけやすく,見落としが減ります.空気少量でも観察可能な前庭部から主に撮影を始めるため,空気多量の時間を短縮でき,患者さんの腹部膨満感を軽減します.
短所:

前庭部から撮影するため,挿入時に胃体・胃角部大弯病変に気付かないと接触して発赤・出血を来す危険性があります.大弯病変には気をつけながら挿入して下さい.大弯病変があれば,まず病変を撮影してから肛門側へ挿入して下さい.

Ver2変更点:

最も大きな変更点は、挿入時にも空気少・中等量での体部後壁・大彎撮影を入れた点です。特に体部後壁は、挿入時空気少-中等量でしか観察できないことがあるためです。
Ver3変更点:

Jターンによる体部観察を引き上げる際に前壁-小彎を中心に観察し、噴門・穹窿部観察後の戻りに後壁-小彎を中心に観察するように変更しました。
Ver4変更点:

通常検査ではブスコパン使用しなくなりましたので変更しました。
Ver5変更点:

嚥下による挿入を追加しました。他細部修正しました。
Ver6変更点:

食道の撮影、文言修正し、感染予防を追加しました。

前処置

  • 検査前日の午後9時以降は絶食.検査当日は絶食.朝コップ1-2杯の飲水は可。
  • 患者の本人確認(本人に氏名を名のらせる)して入力する。
  • 検査目的、内服薬(特に抗血栓剤)、病名、病態を確認する。(過去の内視鏡画像を確認する。カルテを良く見る)
  • 検査前にプロナーゼ加ガスコン水を飲用させ、体位変換させる。体位変換させると胃内洗浄が容易となり検査時間短縮にも繋がる。
  • リドカインアレルギーの有無も確認してから咽頭麻酔。(リドカイン極量200mg).
  • 通常では鎮痙剤を使用しない。検査途中で蠕動が激しい場合にはミンクリア撒布する。抗コリン剤禁忌(緑内障,甲状腺機能亢進症,前立腺肥大,心疾患等)の有無を確認し、精査等の場合には検査5分前にブスコパン1Aを筋注.(禁忌の場合はグルカゴン1Vを筋注.グルカゴンの禁忌:褐色細胞腫)(問診票を確認)
  • 曇り止めを布ガーゼに垂らしてレンズ磨きをする(送気送水チャンネルからレンズ方向に拭く。)曇りが無いことを確認する。
  • 送気,送水,操作を確認する.光量、送気量、ホワイトバランス、撮影条件、等の設定を確認する。
  • 鎮静する場合には患者の状態に応じて薬剤、量を慎重に選択しモニタリングを行う。検査後も覚醒まで監視が必要である。高齢者では特に慎重に行う。意識下鎮静とする。鎮静剤使用の説明同意書が必要である。「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」を遵守する。
  • 術者は手袋、N95マスク、ゴーグル(フェイスシールド)、エプロン(ガウン)を装着する。介助者も同様。検査室内はエアロゾルがあるため、見学者もマスク、ゴーグルが必要。

内視鏡検査

  • 左側臥位で軽く背中を丸めて膝を曲げさせる.軽く顎を前に突き出させる.肩,首の力を抜かせリラックスさせる.(肩を下げさせると良い)
  • 潤滑ゼリー(スループロゼリー)をガーゼに取り、スコープ全体に塗布する。
  • マウスピースをくわえさせる.(義歯は外してもらう。その際はマウスピースをテープで固定する。)
  • 口の奥を広くさせて内視鏡を挿入する(口蓋の正中を確認すると左右にぶれない)咽頭癌リスク患者(食道癌・アルコール多飲者・喫煙者)は咽頭部もよく観察する。
  • 梨状陥凹内へ進入しないように気をつけて、食道入口部を確認し食道に挿入する.(軽く息を止めさせると嘔吐反射が出にくい。通常は左梨状陥凹側から滑り込ませる。時に右からの方が容易なこともある。うまく入らない場合や極細径内視鏡では嚥下動作をさせると良い。嚥下させる場合、入口部の手前(直前ではない)で待ち、嚥下動作で入口部が上昇してきたタイミングで挿入するとスムーズです。)
  • ガスコン水30-50mlを右壁に向けて注入し食道の唾液・粘液を洗う。送気し観察しながら食道を進む

  • 中部食道(左気管支の圧排部より、門歯列より25cm)・下部食道、食道胃接合部を撮影する。(抜去時よりも挿入時の方が綺麗に撮れます。水が貯まる左壁を9時方向にして撮影する。食道胃接合部撮影時に深吸気をさせる)(上部食道は抜去時にしか観察できない)

 
  • 食道胃接合部は少し左に捻じると越えやすい。
  • 胃内に入ると画面左下から右上に走る体部大彎の襞が見える.体中部まで進めてから画面の上方が小彎側になるように内視鏡をたて右ローテーションする.胃液が多ければ吸引する.粘膜を吸引しない様に、液面を吸うようにする。(瀑状胃のため穹窿部でとぐろを巻いたら、噴門部まで引いて空気を抜いてオリエンテーションを確かめてから再度進める。)空気少量で体部後壁を撮影する。
  • 軽く送気をしながら大彎に沿って進め、体中‐下部・胃角部大彎を撮影する。
  • 幽門通過前に幽門の撮影をする。
  • 幽門への挿入はやや脱気したほうがやりやすい.アングルを微妙に調整する.(幽門が逃げたら逃げた方向にアングルをかけると幽門が見つかる.)
  • 送気し十二指腸球部前壁・後壁を撮影する.
  • 下行部への挿入は、上十二指腸角を越えたところで右に捻りながらupをかける。(初心者は無理をしない.無理すると穿孔します.)
  • 十二指腸乳頭部・第二部を撮影する。(正しく入ると9時方向に見えます)
  • 撮影後、十二指腸を観察しながら抜く。(ゆっくりと捻りを戻しながら引くとポンと抜けない.)

 
  • 十二指腸観察後,送気し
  • 前庭部(前壁,小彎,後壁,大彎)を撮影
  • する.(前壁,小彎,後壁,大彎の順に「の」の字を書く様に撮影する.(順番は逆でもよい)
  • 少し引いて前庭部口側(前壁,小彎,後壁,大彎)を撮影する.(この間送気を続ける)
  • 胃角部の前壁,小彎,後壁,大彎を撮影する.(胃角は十分に送気しないと良くみえない.十分観察できなければ後半で観察する.)
  • upアングルをかけたまま(Jターン)で引き上げながら観察・撮影する。(Jターン時、空気量が不十分だと接線方向での観察になる.胃角部-体部後壁が盲点になりやすいので注意。引き上げでは小彎-前壁側を、噴門・穹隆部観察後後の戻りで小彎-後壁側を観察・撮影する)
  • 体下-上部小彎-前壁をJターン(見上げ像)で撮影する.(左右に振りながら小彎-前壁を観察・撮影する。左アングルも利用すると見やすい、特に体上部前壁。)
  • 噴門周囲を撮影する.(全周をくまなく観察、噴門部小弯は盲点になりやすい)
  • 内視鏡を左に180度回しUターンにする.(空気が少ないと粘膜をこすってしまうので注意する。)(右に回しても良い)(U-ターンで少しアングルを緩めて体上部大彎の胃液を吸引すると粘膜を吸引しにくい。)
  • 穹窿部を撮影する.画面の端に噴門を写しこむ.
  • Jターンに戻した後、Jターンのまま胃角部に戻る際に体部小彎-後壁を観察。
  • 体小彎-後壁をJターン(見上げ像)で撮影する.(左右に振りながら小彎-後壁を観察・撮影する。左右アングルも利用する。)
  • (最初に胃角部小彎が見にくかった場合には、胃角部の反転撮影後、少しスコープを押して胃角部裏側を観察、撮影する。)
  • 粘膜をこすらない様にアップアングルを緩めて見下ろし像にする。(小彎側を0時方向にする。)
  • 体下-中部の見下ろし像(前壁,小彎,後壁,大彎)を左右に振りながら撮影する.
  • 体中-上部の見下ろし像(前壁,小彎,後壁,大彎)を左右に振りながら撮影する.
    (体部大彎の襞が十分分離するように送気して膨らます.穹窿部大彎も強い左ターンにupをかけて良く観察する)
    (大彎に胃液が残っていたら吸引してから撮影する.少量ならば仰臥位へ体位変換すると胃液が移動する。)
  • 最後に,見づらかった部位,気になった部位を見直して撮影する.ピロリ菌現感染、既感染のときは積極的に色素撒布して撮影する.
  • 胃内の空気を十分吸引後ゆっくりと抜去を始める.
  • ゆっくりと抜去しながら食道を十分観察し撮影.(ここであまり送気すると胃に空気が入る。)(特に上部食道・頚部食道は抜去時にしか撮影できない。)
  • 食道抜去直前に息を止めさせてからスコープを抜去する。口腔内の吸引が可能なときは実施する(特に高齢者)。マウスピースを外す。


  • 転落防止のため,まずはベッドを下げる.(Safety First !)
  • 患者さんに労い(ねぎらい)の言葉をかける。
  • スコープをガーゼで拭い、水を約200cc吸引,送水を行う.
  • 患者毎に手袋、エプロン(ガウン)を医療廃棄物に廃棄する。ゴーグル(フェイスシールド)を使用済みボックスに、N95マスクを各個人用ビニール袋に戻す。肘まで洗浄し、アルコールで消毒する。
  • 所見をわかりやすく系統的に記入する。初級者は報告書確定前に上級医のチェックを受ける。
  • 患者さんへ説明する場合は簡潔に。(主治医意見との齟齬を避けるため過剰な説明は控える。)
  • 検査をしたら上級医に相談し意見を求める。(自分の欠点に気付かない人は多い)
  • 手が動く様になったとしても、目が養われた訳ではありません。「生兵法は怪我の素」
  • 謙虚な気持ちを忘れずに。検査に責任を持つ。

一般的な注意

  • 撮影時にはレンズ上の粘液,水滴を吹き飛ばし綺麗にする.
  • 粘膜に泡・粘液がのっていたらガスコン水で十分に洗い落とす.上流側から洗うと効率よく時間短縮ができる。洗い落した泡・粘液は吸引する。見下ろしで吸引する際、ライトの反射が消えるギリギリで吸引すると粘膜を吸引しない。
  • 粘膜に近すぎると画面が明るくなり過ぎ飛んでしまいわかりづらい.(PEAK測光も利用する)遠すぎると暗くなる.観察部位を考慮し適切な距離で撮影する.
  • ブレ写真・ボケ写真を撮ることは許されない.
  • 非鎮静の場合、大きな声で患者さんに声をかけ続ける(黙って検査されると患者さんは不安です。今どこを撮影しているかを説明すれば良い).患者さんの全身状態にも気を配る。
  • 撮影部位によりメルクマール(幽門,胃角,体部大彎の襞,噴門等)を画面に写しこむと後でオリエンテーションがつきやすい.
  • 萎縮粘膜の拡がり、RACの有無の背景粘膜に注意を払う。H.pylori未感染、現感染、既感染により注意すべき点が異なる。除菌、経過観察の必要性を主治医に確実に伝える。
  • 上部消化管内視鏡(直視鏡)では盲点になりやすい部があり、そこを意識して観察を行う。胃体部後壁、胃角部後壁、噴門周囲、胃体部大弯、前庭部大弯、大きな病変が死角となりやすい
  • 口から操作部までスコープシャフトにループを作らず、左肘を中心にして回す操作をすると多数例やっても疲れません。

病変に気付いたら

  • 病変があれば遠景で病変部位,周囲粘膜がわかる写真を撮影し,徐々に近づき近景で細部を撮影する.色々な角度から撮影する.
  • 色素(インジゴカルミン)撒布が有用か否かを判断し撒布する.(わずかな色調変化のみの平坦病変は、色素撒布でわかりにくくなることがある。)色素撒布をするときは通常撮影と同じ構図で撮影すると比較しやすい。
  • 拡大でスコープを不用意に粘膜にぶつけた後に色素撒布しても発赤、浮腫の所見が協調されるだけです。
  • 癌は空気量を変えて撮影すると硬さ,深逹度が表現できる.
  • 粘膜下腫瘍などは撒布チューブ等で押し病変の硬さを表現した写真も撮る.
  • 生検の必要性がある場合には、適切な部位を選び慎重に確実に行う。生検後の出血の流れを考慮し生検順序を決める(下流側から生検)。病態に応じて適正な個数を生検する。生検による瘢痕が内視鏡治療の障害にならない様に留意する。(生検1個だけでは病理医が困ることがあります。病態に応じて数個生検する。ESD、EMR予定の患者では、病変部の生検は必要な場合のみ小鉗子で生検)
  • 複数個生検する場合は、生検番号を介助者に明確に伝える。検体間違い、コンタミネーションが起きない様に介助者にも注意を促す。(検体が採取されたことを確認する。)
  • 生検した際の病理組織申込書に病変部位、性状、目的を明確に記載する。(病理医は,記載内容で検査医の技量が解るそうです。)
  • 生検病理診断結果を確認する。再検査、経過観察の必要性があれば主治医に伝える。生検診断から内視鏡診断を見直し修正する。
  • 病変があれば可能な限り遡及し過去画像を見直し反省する。
  • 所見会等で上級医・他医からのチェックを受ける。見直しがなければ上達は期待できない。(自分の欠点に気付かない人は多い)


上部消化管内視鏡検査手技