肝臓・胆道・膵臓外科

治療成績

肝細胞がん |転移性肝がん(大腸がん原発) |転移性肝がん(胃がん原発) 胆道がん 膵臓がん 胆石症・胆嚢ポリープ


▼ 転移性肝がん(大腸がん原発)


II 転移性肝がん(肝転移)の治療戦略
1 大腸がんからの肝転移
1)はじめに
肝転移(転移性肝がんとも呼ぶ)とは、肝臓以外の色々な臓器に発生したがんが血液で肝臓に運ばれ着床し発育したもので、色々な臓器に発生したがんの多くが肝臓に転移する可能性があります。肝転移の中で多いものは、大腸がん、胃がん、胆嚢・胆管がん、膵臓がんなどの消化器系がんですが、これら以外には乳がん、肺がん、頭頸部のがん、子宮や卵巣がんなどの婦人科がん、腎がんなどが肝臓に転移してきます。
早期大腸がんや早期胃がんは、一般に肝転移をきたすことは極めてまれです。しかし、進行大腸がん進行胃がんになると、しばしば肝臓に転移することがあります。進行大腸がんの中で約70%を占めているのはS状結腸がんや直腸がんですが、肝転移の頻度は20〜30%と高率に肝転移が起こります。
ところが、肝臓は“沈黙の臓器”と一般に呼ばれているように、肝転移は大きくなって肝臓の80%近くを占拠するようになるまでは特有の症状はありません。
そのような理由から、肝転移を早期発見するためには、めんどうでも超音波検査、CT、MRIなどの各種画像診断や腫瘍マーカーを定期的にチェックする必要があります。C型肝炎やB型肝炎を原因として発生する“肝細胞がん”では1ヶ月に直径で1mm程度しか大きくなりません。ところが、大腸がんからの肝転移は1ヶ月に直径で5mmから7mmと大きくなる速度が速いので注意が必要です。また、腫瘍マーカーとは腫瘍自体が作り出す特異的な物質であり、腫瘍の量に比例しますので、血液中の腫瘍マーカーを測定することで、肝転移、リンパ節転移や大腸がんの局所再発の有無を診断することができます。しかし、すべての人が同じ顔ではないように、すべての腫瘍細胞が必ず腫瘍マーカーを産生するとは限らないため、腫瘍マーカーの測定だけでは肝転移が発見できないことがありますので注意が必要です。なお、大腸がんの肝転移では、CEAやCA19-9という腫瘍マーカーが利用されています。
これからは、転移性肝がんのうちでも最も頻度が高く、治療する機会の多い大腸がんからの肝転移について説明していきます。


2)大腸がん肝転移の治療法
現在我が国では、非常にまれな治療法として免疫療法、重粒子線治療などもありますが、何と言っても肝切除と抗がん剤治療が二大治療法として汎用されています。
この中で大腸がん肝転移に対する抗がん剤の進歩はめざましく、ひと昔前にはわずか8ヶ月しか生きられなかったのが、最近では30ヶ月を超えるようになり、奏効率も65%が得られるようになっています。しかしながら、患者さんに奏効率は65%と説明致しますと、どうも一般の方は65%という高い頻度で肝転移が消えてしまうと誤解されているように思われます。ところが、肝転移が完全に消失する完全奏功(CR)の得られる割合は文献によると0.4%から5%と非常に低率であり、奏効率65%の大部分は部分奏功(PR)が占めています。残りの35%は肝転移が大きくなることもなく、また小さくなることもない不変(SD)と、肝転移は小さくならないで、逆に大きくなる進行(PD)が占めています。また、生存率も肝切除の方が抗がん剤治療より明らかに優れています。
そのため、現在大腸がん肝転移の治療ガイドラインでは、“肝切除が可能であれば、まず肝切除を選択すべきである”ことが推奨されています。


3)われわれの大腸がん肝転移治療に際しての考え方と取り組み
当然、われわれも大腸がん肝転移に対して肝切除こそが基軸となる治療法であると考えています。しかし、福岡県内のみならず、九州一円はもちろん、さらに全国からわれわれの肝胆膵外科をセカンドオピニオンや直接受診された患者さんをみていると、最近三つのタイプがあることに気がつきました。
まず一つ目は、究極に近い非常に大きな肝切除を行われたものの、残念ながら術後比較的早期に残った肝臓に再発をきたしたため、抗がん剤治療に変更となったものの、その治療効果がかんばしくなかったため来院された患者さん。
二つ目は、肝転移が5個から10個と多発していたため肝切除不能と判断され、まず抗がん剤治療が行われました。ところが、治療効果は認められたものの、完全奏功までには至らず、またこれ以上の抗がん剤治療には耐えられなくなったために来院された患者さん。
残りの一つは、肝転移の数は3、4個と少ないのにもかかわらず、なぜか肝切除が選択されないで、抗がん剤治療が行われたものの、十分な治療効果が得られず、またその副作用がひどく、それに耐えられず来院された患者さん。
いずれのケースにおいても、われわれはその治療方針はけっして間違っていたとは思っていません。しかし、一つ目のケースのように究極的な肝切除を行ってすべての肝転移を切除したと思っても、残った肝臓に再発してくることが多いことも事実であることから、肝切除は2回目、3回目の治療が可能な範囲内の肝切除にとどめておくこと。例えば3本ある肝静脈(肝臓内に入ってきた血液を全身に戻すための血管)は必ず2本残すことなど、必要以上の広範囲の肝切除は行わないで、肝切除以外の治療法に活路を見出すことが必要と考えています。また、二つ目と三つ目のケースですが、先に述べましたように抗がん剤治療だけで完治が得られる割合はわずか5%以下であり、唯一完治が期待できるのは肝切除であることを決して忘れないことが必要と考えています。しかし一方、長年大腸がん肝転移にたずさわっていますと、肝転移が肝臓全体に散在性に多発しているケースの中には、肝切除単独での治療では難しい場合もあるのではないかと考えるようになっています。
このような多くの患者さんからの相談と長年にわたるわれわれの経験から、大腸がん肝転移の治療に際して大切なことは、(1)肝切除という唯一つの治療法だけにこだわらず、われわれの施設において、肝細胞がんに対して20数年の実績のあるマイクロ波凝固壊死療法(MCN)を積極的に活用すること。(2)抗がん剤をむやみに早く使用してしまうと、抗がん剤に対して耐性が出現することが危惧されるので、抗がん剤治療は、『肝切除不能肝転移ではなく、肝切除とMCNを併用しても、どうしても治療が困難と判断される肝転移、すなわち外科治療不能肝転移』と、肝切除とMCNを駆使して何回も治療したものの、これ以上はどうしても対処出来なくなってしまった“外科治療(肝切除、MCN)不能肝転移”になるまでは、抗がん剤治療は大切に温存しておくことこそが重要ではないかと考えるようになっています。



4)当科の大腸がん肝転移に対する治療成績
1994年7月の開院から2013年12月末までに318人の大腸がん肝転移の患者さんに対して手術を行ってきましたが、手術回数はのべ491回と多くの手術を行ってきました。その内、初回肝転移の手術を当院で行った患者さんは287人で、のべ442回の手術を行っています。


当院で初めて大腸がん肝転移の手術を行った患者さんの中で他の臓器にも重複癌がんに罹患されていた方を除いた276人の方を対象として治療成績を検討すると、術後1年・3年・5年生存率は91.0%、57.6%、42.6%でした。
術式別に見ると、肝切除単独で治療した94名の方の術後1年・3年・5年生存率は91.0%、64.9%、51.5%でした。MCN単独で治療した123名の方の術後1年・3年・5年生存率は91.6%、59.1%、43.8%でした。また、肝切除とMCNを併用して治療した59名の方の術後1年・3年・5年生存率は89.8%、44.4%、28.1%でした。
手術術式で生存率に若干の差を認めますが、この生存率の差は肝転移個数のちがいによるものと考えています。肝切除のみを行った方の肝転移個数は平均2.1個、MCNのみを行った方の肝転移個数は平均4.7個、肝切除とMCN併用した方の肝転移個数は平均6.3個であり、個数が多くなればなるほど条件は悪くなるため、このような結果になったものと考えています。

 

5)多発肝転移に対する外科治療
大腸がん肝転移は、1個であることもありますが、その多くは2個以上のことが多いようです。そこで、数年前、肝転移が何個以上になると予後が悪いのか?と他施設共同研究で検討されました。
その結果、肝転移が5個以上になると予後が悪いことが明らかとなりました(われわれの単施設での検討においても、同じように4個と5個の間で有意差を認めました)ので、現在多くの施設では予後の悪い肝転移が5個以上ある場合には、まず抗がん剤治療が選択されることが多くなっているようです。


しかしながら、当科での肝転移が5個以上の当科の治療成績をみてみると、平均治療個数9.5個で5年生存率は34%でした。特に化学療法が大きく進歩した2003年以降でみてみても、5年生存率は41%と明らかに抗がん剤治療よりも良い成績が得られていました。また、選択した手術術式をみてみると、多くの患者さんでMCN単独あるいはMCN+肝切除が行われていました。その中には肝転移を肝切除だけで対処しようとすると、残肝容量が不足してしまうため、治療そのものが不可能となってしまう患者さんも少なからずありました。

 

ところが、MCNを併用することで、肝切除不能なケースも手術可能となっていました。また、その治療成績をみると、明らかに抗がん剤治療を行うよりも長期生存が得られていますし、国内外の他の報告と比較しても良好な治療成績が得られていました。
しかし一方、手術するためには“開腹(お腹を切る)”必要があるため、当然痛みの問題や体にメスをいれるという精神的負担もあり大変です。一方、抗がん剤治療では、治療している間ずっと食欲不振、全身倦怠感、顔面・体幹のニキビ様皮疹、手足のしびれなどの副作用に大なり小なりさいなまれないといけません。われわれの肝胆膵外科において2、3回手術を行った患者さんに、今回は抗がん剤治療を選択しましょうと説明しますと、最初はみなさん喜ばれます。ところが、抗がん剤治療が6ヶ月くらいたちますと、“手術は1ヶ月くらい我慢すれば、その後は快適に生活できるが、抗がん剤治療の場合はずーと気分が悪い”と話され、副作用をほとんど認めなかった数名を除いたほとんどの患者さんから“もう一度手術はできませんか?”と相談されることを考えますと、今の時点では『肝切除+抗がん剤治療』よりも『肝切除+MCN』という治療法を駆使して大腸がん多発肝転移にのぞむことこそが、患者さんのニーズに答えることになるものと考えています。


6)大腸がん超多発(20個前後)肝転移に対する新しい挑戦
肝転移は何個までだったら肝切除とMCNを合わせた手術が可能なのでしょうか? ごく最近の2013年12月末から2014年に入って、全国の大腸がん多発肝転移を患っている患者さんから毎月1,2回相談を受けるようになっています。
そのようなことから、肝胆膵外科のスタッフ全員で『何個までの肝転移を適応とするか?』について相談しました。
その結果、いきなり30個は難しいものの、たまたま19個の超多発肝転移を肝切除+MCNで治療し、その後2回手術(1回は遺残していた1個の肝転移を肝切除し、残りの1回は肝転移2個MCN)を行いました。これは余談ですが、3回目の手術を行った術後3日目に丁度福岡ヤフードームで催されていた“福山雅治のコンサート”に行きたいと相談され、行かれたことにはビックリしましたが、現在術後3年6ヶ月無再発で生存しておられることを経験していること。また、以前にも4,5例20個前後までMCNした経験があることの2点から、まず“20個前後を限度”として超多発肝転移に対して挑戦しています。もちろん世界中で20個もの超多発肝転移に対して挑戦した報告は皆無なようですので、これまで以上に慎重に取り組みたいと考えています。
そこで、(1)まず自分自身で外来エコーにて大まかの肝転移の個数と局在を診断し、どこを肝切除し、どこをMCNするかを決定する。(2)正確な肝転移個数はMRIとCTにて診断する。(3)胸部CT、上腹部から骨盤までのCTにて、肺転移、リンパ節転移、腹膜播種がないことを確認する。(4)PET-CTにて遠隔転移の有無を確認する。(5)アシアロシンチとビンセントCTにて予定する肝切除が安全に行えるかの肝予備力を評価する。(6)術後にはほぼ再発は必発する可能性が高率である可能性が高いことが予測されることから、現在までの大腸がん肝転移に対する治療成績はもちろんのこと、“今後2,3回の手術がほぼ必ず必要となることと、手術不能となるまでは抗がん剤治療は行わないこと”を患者さんとその御家族にインフォームドコンセントする。(7)術後は1回/月と密に経過観察することなどの7項目を必ず実践しています。
また、20個前後の超多発肝転移を行ったすべての患者さんのその後の経過について、同じ手術を予定している患者さんにはもちろん十分に説明し同意を得ておりますが、また学会やホームページでも随時報告していきたいと考えています。また、2、3年後、その結果によっては、抗がん剤の補助化学療法をどのように絡めていくかについて考えてみたいとも考えています。


7)肝転移術後の補助化学療法について
肝転移切除後の補助化学療法(再発を防止するために行う抗がん剤治療)は、日本だけでなく世界においてもまだ良好な結果が示されておらず、有効なのか有効でないのかはっきりしていないのが現状です。ただ、日本の多くの施設では、術後の再発予防を目的として抗がん剤治療が行われているのが実情ですが、すべての患者さんに投与した方が良いのかどうかはまだよくわかっていません。
われわれの肝胆膵外科では、これまで大腸がん肝転移において何が予後を不良としている因子であるのか検討してきました。その結果、“肝転移数が5個以上、大腸がんが漿膜面に露出している、多数のリンパ節転移が陽性、脈管やリンパ管侵襲が多数(v2, ly2以上)認められる方が予後不良であること”が明らかとなったため、これに該当する患者さんに対して術後に再発予防の目的で抗がん剤治療を行ってきました。
その結果、再発予防効果、生存延長効果に関しては、統計学的有意差は認めませんでした。ただ、肝内の再発に対しては抑制効果があるようです。しかし、術後抗がん剤治療を行うことで、抗がん剤への耐性が生じたり、脂肪肝になって肝臓の予備力を低下させたり、また再発に対して再度抗がん剤投与が必要となった時に、以前の抗がん剤治療において経験した重い副作用がトラウマとして記憶されているため、術後の抗がん剤治療を拒否するなど、メリットと比べデメリットが多いことから、近い将来大規模な臨床試験において肝転移術後の補助化学療法の有効性が証明されるまでは、むやみに補助化学療法を行わない方が良いのではないか考えており、現在術後補助化学療法は行っておりません。


8)抗がん剤治療
肝切除のみで対処しようとすると、切除不能な大腸がん多発肝転移はどうしても多くなるものと考えられます。ところが、当肝胆膵外科のように、肝切除にMCNを組み合わせますと、その適応範囲は広くなるものと考えられます。それでも、どうしても手術不能となる場合はあります。その様な場合には、抗がん剤治療を選択することになります。そうすることで、最初は手術適応とならないような肝転移の中には、抗がん剤治療により肝転移が小さくなれば、手術(肝切除+MCN)可能となる場合もあります。
また、先に述べましたように抗がん剤治療による生存期間は、以前はわずか8ヶ月程度でしたが、最近では30ヶ月を超えるほどとなっています。
現在、抗がん剤の種類も第1選択の標準化学療法はいくつかの抗癌剤を併用したFOLFOX(L-OHP+infusional 5-FU/LV併用)またはFOLFILI(CPT-11+infusional 5-FU/LV併用)に分子標的治療薬Bevacizumab(アバスチン)あるいはcetuximab(アービタックス)、panitumumab(ベクティビックス)を加えたものになります。ただし、cetuximab、panitumumabはがん遺伝子k-ras変異型には効かないため、野生型のみが適応となりますし、最近アバスチンもまた耐性が生じることが報告されており注意が必要です。さらに、XELOX(ゼローダ+L-OHP)、XELIRI(ゼローダ+CPT-11)、ゼローダ、cetuximab+CPT-11、panitumumab+CPT-11など、これら多くの抗がん剤の組み合わせの中から、米国がん治療ガイドラインに沿って治療を行っております。ここ数年で有効な薬剤が登場し、抗がん剤の選択肢が増えたことにより、現在では生存期間中央値が30ヶ月を超えてきたとも報告されるようになってきました。
さらに、2013年に新たな治療薬として、分子標的治療薬スチバーガも承認されました。スチバーガの縮小効果は低いものの、長期に状態を維持できる特徴をもち、効果がある人には期待できる治療です。また、2014年春すぎに、ロンサーフという治療薬が登場し、スチバーガの次の治療薬として注目されているなど、多種多様な抗がん剤や分子標的治療薬が揃っています。
肝切除+MCNでも手術不能と判断された場合には、われわれも迷うことなく新しい抗がん剤の全身投与を第一選択肢として行っています。しかし、抗がん剤を変更しても、どうしても抗がん剤治療の効果が得られなかった場合で、患者さんの生命予後を考えると、肝転移の優先順位が高いと判断された場合には、『抗がん剤の肝動注療法』を積極的に行っています。抗がん剤肝動注療法はほぼ肝臓だけに限定されるため、全身抗がん剤治療に比べて副作用ははるかに軽微であり、治療効果は肝臓病変に限っては全身抗がん剤治療より腫瘍縮小効果が高いと考えており、現在も転移性肝がんに有用と考えております。
また、抗がん剤治療は、最初は入院していただき行いますが、安定した治療効果が得られた患者さんにはその後は外来通院でも可能な時代になってきております。当院では、『外来化学療法センター』を25床以上有していますので、大腸がん肝転移以外の患者さんに限らず、他のがんを患っておられる患者さんもまた日常は家で生活しながら外来通院で抗がん剤治療を受けておられます。