肝臓・胆道・膵臓外科

治療成績

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▼ 転移性肝がん(胃がん原発)


III 転移性肝がん(胃がん肝転移)の治療戦略
1 胃がんからの肝転移
1)はじめに
胃がんからの肝転移は、肝臓以外の臓器への遠隔転移やリンパ節転移や腹膜播種などを伴っていることが多く、その予後は決して良くないのが現状です。「胃がん治療ガイドライン(第3版)」には、進行・再発胃がんに対する標準治療はS-1+CDDPを中心とした全身化学療法と記載されており、その奏効率は約28~54%、生存期間中央値は10~13ヶ月と報告されています。しかし、全身化学療法のみで肝転移が完全に消失する完全奏功(CR)が得られることは困難であり、長期生存が得られる可能性は低いと言わざるを得ません。
しかし、時に、胃がん肝転移の患者さんの中にも、肝臓のみに病変が限局している方も存在しており、その場合には外科的治療が奏効する可能性があります。胃がん肝転移では、肝以外の遠隔転移、リンパ節転移や腹膜播種などの非治癒因子を伴っていることが多いことから、外科的治療の適応となる患者さんは決して多くはありませんが、最近では外科的治療により長期生存が得られたとの報告が少しずつ散見されるようになってきています。


2)当科での胃がん肝転移に対する治療方針
当科では前述のごとく、マイクロ波凝固壊死療法(以下MCN)を原発性肝がんである肝細胞がんのみならず、大腸がん肝転移や乳がん肝転移などの転移性肝がんまでその適応を少しずつ拡大してきました。 当科では、大腸がん肝転移と比べるとその手術適応は少し慎重に決定していますが、胃がん肝転移に対しても肝切除とMCNを組み合わせた外科治療を行っています。
当科での胃がん肝転移の手術適応は原則として、(1)肝転移以外にリンパ節転移、腹膜播種などの非治癒因子がない、(2)原発部位である胃と同時性か異時性かは問わない、(3)患者さんの全身状態(Performance status)が良好であること、としています。肝転移の個数による制限は行っておらず、肝切除またはMCNにて局所コントロールが可能と判断した患者さんに対して手術を行っています。


3)当科の胃がん肝転移に対する治療成績
当科では1994年(平成6年)7月1日の開院以来、2014年(平成26年)12月までに、31名の胃がん肝転移の患者さんに手術を行いました。手術を行った31名の肝転移の平均腫瘍径は30.5mm(5~80mm)で、平均個数は2.4個(1~9個)でした。選択した術式は、肝切除単独が13名、MCN単独が 11名、肝切除とMCNを併用して手術を行った方が 7名でした。
全31名の治療成績を検討すると、1年、3年、5年生存率は83.3%、38.3%、34.8%でした。術式別に見ると、肝切除単独で治療した13名の方の術後1年、3年、5年生存率は83.3%、50.0%、50.0%でした。MCN単独で治療した11名の方の術後1年、3年、5年生存率は90.9%、36.3%、24.2%でした。また、肝切除とMCNを併用して治療した7名の方の術後1年、3年生存率は71.4%、19.0%でした。手術術式で生存率に若干の差を認めますが、この生存率の差は肝転移の個数のちがいによるものと考えています。肝切除のみを行った方の肝転移個数は平均1.1個、MCNのみを行った方の肝転移個数は平均3.0個、肝切除とMCNを併用した方の肝転移個数は平均4.0個であり、個数が多くなればなるほど条件は悪くなるため、このような結果になったものと考えています。
肝転移の手術後に5年以上にわたって無再発で生存されている方が7名いらっしゃいます。7名中5名は肝転移1個に対して肝切除を行った方、7名中1名は肝転移1個に対してMCNを行った方、残りの1名は7個の多発肝転移に対してMCNを行った患者さんでした。
このような当科の治療成績の結果から、単発(腫瘍個数が1個)で肝臓以外への転移がなく切除可能であれば積極的に肝切除を行う方針としています。しかしながら、胃がん肝転移はその生物学的悪性度から肝転移単発例は少なく、肝転移が発見された時点で複数個の肝転移を認める例が少なくないのも事実です。そこで、肝転移個数が多く肝切除の適応とならない患者さんまたはご高齢などで全身状態から肝切除は難しいと考えられる患者さんに対してはMCNを併用し、手術適応の幅を広げて胃がん肝転移に対する外科治療を行っています。
一方で、胃がん肝転移術後の予後を見てみると、31名中18名に術後再発を認め、そのほとんどは肝内に再々発を認めていました。このような結果から、肝転移個数が多く再発するリスクが高いと考えられる患者さんには、術後に補助化学療法を行う方針としています。
以上より、胃がん肝転移に対する現在の基本治療はS-1を中心とした全身化学療法ですが、状況によっては肝切除およびMCNを併用することにより長期生存が得られる場合があり、化学療法と外科手術を組み合わせた集学的治療が有効であると考えています。



参考文献
1) 龍 知記,高見裕子,立石昌樹,和田幸之,才津秀樹:肝切除とマイクロ波凝固壊死療法(MCN)を使い分けた胃がん肝転移に対する当科の治療成績の検討.J. Microwave Surg. 30 :97-102, 2012.
2) Takami Y, Ryu T, Wada Y, Saitsu H : Evaluation of intraoperative microwave coagulo-necrotic therapy (MCN) for hepatocellular carcinoma: a single center experience of 719 consecutive cases. J Hepatobiliary Pancreat Sci 20 : 332-341, 2013
3) Takami Y, Wada Y, Saitsu H : Strategies for the treatment of hepatocllular carcinoma: HR and MCN. J Microwave Surg. 27 : 77-83, 2009
4)和田幸之,高見裕子,龍 知記,河野修三,才津秀樹:大腸がん尾状葉肝転移に対するマイクロ波凝固壊死療法(MCN)の有用性.J. Microwave Surg. 26 :101-106, 2008.
5)高見裕子,藤井輝彦,池尻公二,才津秀樹:乳がん肝転移の治療戦略-マイクロ波凝固壊死療法を中心とした集学的治療-.消化器科 45 : 92-99, 2007.