肝臓・胆道・膵臓外科

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▼ 膵臓がん


1 膵がんとは
膵臓はみぞおちの奥、胃の裏側にあり、上腹部の最も背中側に位置する長さ約15cmの左右に細長い臓器です。膵臓の右側を膵頭部、左端の細長い部分を膵尾部、頭部と尾部の中間部分を膵体部と呼びます。膵臓の主な働きは食べ物の消化と血糖値の調節であり、食べ物を消化する消化液(膵液)をつくる働き(外分泌)とインスリンやグルカゴンなどのホルモンをつくる働き(内分泌)があります。外分泌細胞から発生する腫瘍・がんには、浸潤性膵管がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵嚢胞性嚢胞腫瘍(MCN)などがあり、内分泌細胞からは内分泌腫瘍 (PNET)が発生します。膵臓から発生する原発性の膵がんの約90%を浸潤性膵管がんが占めており、膵がんとは通常この浸潤性膵管がんのことを指します。ここでは浸潤性膵管がんを中心に解説をしていきます。
膵がんの患者さんは年々増加しており、2013年の最新の統計では、わが国では毎年約3万人の方が膵がんに罹患し、約3万2千人の方が膵がんで亡くなっています。他の部位のがんに比べ、罹患数に対する死亡数の割合が極端に高い(罹患数と死亡数がほぼ同数)のが特徴で、膵がん患者の生存率が低いことが伺えます。膵がんはがんの中でも最も悪性度が高いがんの一つと考えられています。膵がんを起こす危険因子として、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、膵がんの家族歴、肥満、高脂肪食などがあげられています。


2 症状
早期の膵がんに特徴的な症状はありません。早期の場合は無症状のことも多く、自覚症状としては上腹部の違和感や重苦しい感じがする、何となくお腹の調子が良くない、食欲が落ちたなどの漠然としたものです。 比較的膵がんに関連のある症状としては、膵がんができると糖尿病を発症したり血糖のコントロールが急に悪くなったりすることがあります。ですので、糖尿病の発症や急な悪化は膵がんを発見する大きな目安といえます。進行していくとがんが周囲の神経を圧迫することにより持続的な腹痛や背部痛が出現し、約5~10 kgの体重減少などがおこります。
また、がんの発生部位により症状は変わってきます。膵頭部にがんができた場合(膵頭部がん)は胆汁の通り道である胆管が詰まり、胆汁の流れが悪くなり黄疸(閉塞性黄疸)が生じる場合があります。黄疸が出ると体や白目が黄色くなり、体がかゆくなったり、尿の色が紅茶のように濃くなったりします。黄疸は膵がんの発見のきっかけになります。また、膵管が詰まることにより膵液の流れが悪くなり、膵炎が起こりみぞおちの辺りの痛みや、背中や腰の痛みなどの症状が出ることがあります。膵体部がんまたは膵尾部がんでは胆管から離れていることや、膵管が詰まっても膵炎を起こす範囲が少ないことなどから症状がでるまでに時間がかかることから、発見が遅れることが多いと言われています。


3 診断
膵がんが疑われたときに行う主な検査は、血液検査と画像検査です。血液検査では腫瘍マーカーや黄疸の有無(ビリルビン値)をみます。膵がんではCEA、CA19-9、Span-1、DUPAN-2などの腫瘍マーカーの検索が有用ですが、これらの数値は早期の場合はがんがあるからといって必ず上昇するとは限らず、膵がんの早期発見にはあまり役立ちません。
画像検査では腹部超音波検査、CT検査、MRI検査(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、PET検査などを行います。特に造影CT検査は膵臓や周囲の臓器がはっきりと描出され、膵がんの存在診断に有用です。がんの部位や周囲への広がりの程度を診断し、がんの進行程度を判断します(病期診断)。また、内視鏡を用いて膵管や胆管を直接造影する内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)を行い、膵液を採取し膵液中のがん細胞の有無を調べこともあります。また、ERCP検査の際には胆管内へ細いチューブを挿入し、うっ滞した胆汁を十二指腸内に排出させ黄疸を軽減させる処置を行う場合もあります。超音波内視鏡検査(EUS)は、とくに2cm以下の小さな膵がんの検出に非常に有用な検査で、内視鏡を行い内視鏡の先端に備えられた超音波端子で膵臓を検索します。


4 病期診断
手術の可否を含めた治療法の選択には正確な病期診断が大切です。膵臓がん取り扱い規約により膵がんの進行度(ステージ)はI~IV期に分類されています。病期の診断は主にCT検査やEUS、PET検査などの検査結果を総合的に判断して行います。腫瘍の大きさ、十二指腸や胆管など周囲の臓器への浸潤、リンパ節転移、門脈や動脈への浸潤などの有無によって規定されています。門脈(腸管から膵臓の背側を通り肝臓へ流入する血管)や周囲の重要な動脈への浸潤を伴う場合はIVa期、肝転移や腹膜転移(腹膜播種)などの他の臓器への転移を伴う場合はIVb期となります。


5 治療法
治療法は、進行度によって決定されます。進行度IからIII、IVa期の一部では手術が第一選択となり、多くのIVb期では化学療法あるいは化学放射線療法、IVb期では化学療法が第一選択となります。膵がんは診断時に進行していることが多く、切除可能な症例は決して多くはないのが現状ですが、膵がんの根治的治療は手術しか方法がありません。よって、他の臓器への転移がなく手術により根治が可能と判断される場合は、外科手術を強くおすすめします。
【手術療法】
手術術式は、膵がんが存在している部位によって異なります。がんが膵頭部にある場合は、膵頭部だけではなく十二指腸、胆のう、胆管などを取り除く「膵頭十二指腸切除術」が行われます。当院では、術後の栄養状態を考えて胃のほぼ全体を残す「亜全胃温存膵頭十二指腸切除術」を基本術式としています。膵体部や膵尾部にがんがある場合は、尾側膵切除術(脾臓合併膵体尾部切除術)が行われます。膵臓は小さな臓器ですが、十二指腸や胆管と接して存在しているため、膵頭部がんの場合には膵臓を切除するだけでなく、十二指腸や胆管を膵臓と共に切除しそれぞれを再建するという大きな手術が必要となります。門脈へがんが浸潤している場合は、門脈合併切除を行うこともあります。膵体尾部がんの場合は、脾臓を合併切除することが必要となります。いずれも難易度の高い手術であり、緻密な技術が必要とされます。
閉塞性黄疸がある場合は、手術や次に述べます全身化学療法を安全に行う妨げになるために治療前に黄疸を下げる処置を行います。一般的には内視鏡を用いて十二指腸乳頭部からがんによる狭窄を越えた場所までチューブを挿入し胆汁の流れを確保します。全身化学療法を行う場合は、より長期間留置できるように、形状記憶合金でできた金属製のステントを胆管内に留置する場合があります。
また、2014年からは膵良性または低悪性度腫瘍に対する膵体尾部切除については腹腔鏡下手術を本格的に導入し、膵体尾部切除術の多くは、腹腔鏡(補助)下に行っています。また、腫瘍の大きさや場所によっては膵臓を部分的に摘出する縮小手術なども行っています。
【化学療法または化学放射線療法】
膵がんに対する化学療法は大きく分けて、術後再発予防のための補助化学療法と手術できなかった場合や再発してしまった時に行う化学療法があります。
膵がんは切除できたとしてもその成績は残念ながら満足できるものではなく、術後の再発を予防するための補助化学療法を行うことが重要となります。最近わが国から術後に経口抗がん剤(内服薬)であるTS-1を内服することによって高い再発予防効果があることが報告され、膵がん術後補助化学療法の標準治療となりました。当院でも術後にはTS-1の内服を術後約半年間を目安に行うようにしています。
病期診断で手術できないと判断された場合は、抗がん剤による全身化学療法を行います。使用する抗がん剤はジェムザール(注射薬)、TS-1、シスプラチンなどがあります。ジェムザールやTS-1は比較的副作用が軽いため、ほとんどの方は週1回の外来通院で治療を受けられ、残りの時間は家庭で過ごすことが可能となっています。
また、がんが進行しており手術はできないが、肝臓などの遠く離れた臓器に転移をしていない場合(局所進行膵がん)は、化学療法に放射線治療を加えた化学放射線療法を行う場合もあります。治療前は切除不能の局所進行膵がんであっても腫瘍の縮小により切除が可能な状態になることを目指して化学放射線療法を行っています。


6 治療成績
膵がんは残念ながらあらゆるがんの中で最も生存率が不良ながんの一つと言われています。膵がんは早期発見が難しく、多くの場合は進行した状態で発見されます。精密検査を行った段階で残念ながら手術できないと判断される患者さんも多いのが現状です。根治手術ができたとしてもその5年生存率は約10~30%、転移はないが根治手術ができない患者さんの1年生存率は約30~50%、転移があるため根治手術ができない患者さんの1年生存率は約10~30%と言われています。
当肝胆膵外科では肝臓だけでなく、胆道や膵臓のがんに対しても専門的な手術を行っております。当院設立1994年以来2015年末までの約20年間で、膵がん(浸潤性膵管がん)以外の膵腫瘍も含めた膵疾患対して手術を行った患者さんは168例でした。
2010年から2015年までの直近6年間に当院で行った胆道がんも含めた膵切除手術件数を示します。当院での膵切除手術件数は年間約20から30例です。膵がんは手術だけで治療成績を向上させることには限界があり、化学療法や状況によっては放射線治療を組み合わせた集学的治療が今後さらに重要になってくると思われます。われわれは術後の栄養状態や全身状態を考慮した過不足のない手術を行い、必要に応じて十分な化学療法を受けていただけるような集学的治療を心がけています。