肝臓・胆道・膵臓外科

治療成績

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▼ 肝細胞がん


I 肝細胞がんの過去20年間の治療成績と最近の新しい治療戦略
1 肝細胞がんとは?
肝がんには、肝臓自体から発生してくる『原発性肝がん』と肝臓以外の色々な臓器に発生したがんが、肝臓に血液で運ばれ着床して発育した『転移性肝がん』があります。また、さらに原発性肝がんは肝細胞から発生する『肝細胞がん』と胆管細胞から発生する『肝内胆管がん(胆管細胞がんとも呼ばれている)』があります。なお、原発性肝がんの大部分を占めているのが肝細胞がんですので、“肝がん”と呼ぶ場合は、一般的に“肝細胞がん”を示しています。

2 肝細胞がんの原因

肝細胞がんの主な原因としては、C型肝炎、B型肝炎などのウイルス性肝炎とB型あるいはC型肝炎でもない、いわゆる非B非C型肝炎があります。以前はC型肝炎が70%、B型肝炎が15%と肝細胞がんの原因の大部分を占めていました。ところが、最近非B非C型肝炎が急速に増加しており、10年前の2倍となっています。その内訳は、アルコール性が50%と最も多く、次いで非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が35%を占めています。その他には頻度は非常に少ないものの、原発性胆汁性肝硬変や自己免疫性肝炎などがあります。今後しばらくは、B型肝炎を原因とする肝細胞がんはほとんど減ることはないものの、最近長年行われてきたインターフェロンに変わって効果的な内服治療薬が次々に導入されてきたため、C型肝炎を原因とする肝細胞がんは次第に減少してくることが予想されています。しかし、それに変わって非B非C型肝炎が急増してくると考えられています。

3 肝細胞がんの発育増殖
肝細胞がんは、異型結節(腺腫様過形成)という前がん病変から始まり、その中央部に高分化型肝がんが発生し、それが徐々に大きくなって全体を占めるようになります。次にこの高分化型肝がんの中央部に中分化型肝がんが発生し、それが大きくなって全体を占めるようになります。さらに同じように低分化型肝がんへと変化していきます。肝細胞がんの95%はこのような多段階発がん過程をへて大きくなりますが、また、このような多段階発がん過程をへないで、いきなり中分化型肝がんで発生し大きくなるものが5%程度あるものと考えられています。

4 肝細胞がんの再発の原因は肝内転移と多中性発がん
先に述べたように肝細胞がんは、高分化型肝がんから中分化型肝がん、低分化型肝がんへと変化しつつ大きくなりますが、70%と大部分を占めている中分化型肝がんになると肝動脈支配となり、CTなどの画像診断で濃染するようになります。また、その発育過程で肝細胞がんの腫瘍内圧は徐々に上昇するため、トコロテンを押し出すように周辺の門脈内に腫瘍栓が押し出され肝内転移を形成するようになります。  また一方、肝細胞がんでは肝臓内にいくつものがんの芽が発生している(多中心性発がんという)可能性があるため、経過とともにこれらのがんの芽が大きくなってくることが知られています。このような肝内転移と多中心性発がんという二つの理由から、肝細胞がんでは、RFAでは治療後5年でほぼ100%再発を認めるといわれており、また最も根治性が期待されている肝切除を選択したとしても、5年経過する間に70%前後という高率に再発を認めるようになります。肝切除後の再発の頻度は、最近も、20年前、30年前もほぼ変わっていません。

5 肝細胞がんの治療法
現在、肝細胞がんに対しては、肝切除、生体肝移植、ラジオ波焼却療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、抗がん剤肝動注療法、陽子線と炭素線などの粒子線治療(これは保険外診療となります)、ネクサバールなどの分子標的治療、免疫療法、それにわれわれが最も汎用している『マイクロ波凝固壊死療法(MCN)』など多種多様な治療法がそろっています。 われわれの肝胆膵外科では、これらの治療法の中で肝切除、MCN、TACE、抗がん剤肝動注療法、ネクサバールなどの分子標的治療を行っています。しかし、患者さんに治療法を説明して、生体肝移植、粒子線治療や免疫療法を望まれるようでしたら他施設へ紹介しています。 現在、我が国の肝細胞がんの治療ガイドラインでは、『3cm以下3個以下の肝細胞がんに対しては、肝切除とRFA、MCNなどの局所療法』が推奨されています。 現在、我が国ではRFAが内科に限らず外科の多くの施設で行われており、局所治療の90%以上を占めています。しかし、最近アメリカやヨーロッパ、そして中国では、RFAに変わってマイクロ波治療が90%近くを占めているようです。 その理由は、RFAは血流を認める血管の部分では、それより先の部分では治療効果がえられない(Heat sink effectと呼ばれている)ため、局所再発の頻度が高率に認められることと、3cmよりさらに大きな肝細胞がんを治療することが目的のようです。また、われわれの肝胆膵外科では、1989年1月から行ってきたMCNに加えて、1999年12月から2000年12月までの1年間だけ、RFAを60数例に対して行いました。その結果、大部分の患者さんは十分な治療効果がえられました。しかし、10数%の患者さんにおいて、それまで長年多数の患者さんに行ってきたMCNではほとんど経験することのなかった奇異な肝内転移が認められました。そこで、その原因は何か?と色々考えてみましたが、MCNでは肝細胞がんの周辺から中心部に向かって治療をすすめますが、RFAは肝細胞がんの中心を穿刺して加温するため、もともと腫瘍内圧が上昇している肝細胞がんの内圧をさらに高めることとなり、肝細胞がんの辺縁の門脈内に存在する腫瘍塞栓を飛散させたとの結論に達しました。  このような経験から、当肝胆膵外科ではRFAから完全に撤退し、2001年以降はRFAで経験したことをMCNに生かしつつMCNのみを行っています。しかし、われわれがMCNという治療法だけにこだわっている理由と、先に述べた最近欧米や中国でマイクロ波治療が多くなっている理由とはまったく異なっています。

6 われわれの肝細胞がん治療の考え方と最近の新しい挑戦
先に述べてきましたように、肝細胞がんはいくつかの段階(多段階発がん過程)をへて大きくなり、肝内に“転移再発”してきます。また、新しい肝細胞がんの芽、すなわち“多中心性発がん”のために、5年経過しますと残念ながら大部分(70%)が再発してきます。また、これに加えて、肝細胞がんの多くは肝硬変などの慢性肝疾患を併存しており、肝臓の働き(肝予備力)は大なり小なり低下しています。肝細胞がんはこのように2つの要因のために、その治療は色々な制限を受けています。  そのため、肝細胞がんを患っておられる患者さんに長く生きていただくためには、この2つのバランスをとることを常に意識して治療することが求められます。すなわち、肝臓自体をできるだけ痛めつけることがなく(低侵襲)、また一方肝細胞がんの再発を可能な限り少なくするような工夫を加え、またたとえ再発しても何回でも行える治療法を選択することが望ましいと考えています。われわれの肝胆膵外科では、肝切除は非常に優れた治療法ではあることはもちろん理解しています。しかし、肝切除だけに固執することなく、MCNという治療法を臨機応変に多用しています。例えば、肝臓の働き(肝予備力)が良好で、5cm以上の大きな1個の大型肝細胞がんに対しては、MCNにこだわらず積極的に肝切除を行っていますが、一方脳、心、肺、腎などに重篤な合併症を伴っている高齢者には、あえて肝切除を選択せずMCNを行うこともあります。このように、肝細胞がんの治療に際しては、ほぼ同等の治療成績が得られている肝切除とMCNという2つの治療法を上手に使い分けることが必要であり、肝切除だけ、あるいはMCNだけという唯一つの治療法だけでは対応できないのではないかと考え、開院以来20年、肝切除とMCNの二つを臨機応変に使い分けてきました。長年、MCNの方法は、超音波映像下に“肝細胞がんの周辺から中心部に向かって細い電極を穿刺と凝固を繰り返し加熱するもの”でした。ただ、われわれの行っているMCNは、“肝細胞がんの中心部を穿刺して加熱する”RFAやわれわれと同じマイクロ波を用いる経皮的マイクロ波治療(PMCT)とは、がんの治療法としては基本的に異なった治療法と考えています。しかし、これまでの多数の肝細胞がんの治療経験から、2、3年前からMCNは肝細胞がんの発育増殖過程をもっと意識した方法に変えた方が、さらに良い治療効果が得られるのではないかと考えるようになりました。その方法ですが、専門的に説明すると難しくなりますので、皆さんにはわかりやすく説明致しますが、まず“肝細胞がんに栄養や酸素を供給している脈管の近傍を穿刺して加熱凝固”し、肝内転移に関係している門脈内腫瘍栓を初めに処理します。それが十分に行えましたら、その後は今まで行ってきたMCNを行いますが、肝細胞がんの飛散防止策を新たに追加したこの新しい工夫を『new MCN』とわれわれは呼んでおり、最近多くの学会において発表しています。また、2013年12月末からは、このMCNの新しい工夫(new MCN)は、一例目の切除肝の病理組織学的な検討から、門脈内腫瘍栓に熱変性が及んでいたことが確認されたことから、肝切除中の肝細胞がんの飛散防止策としても有用ではないかと考えており、現在肝切除例にも臨床応用して検討中です。

7 過去20年間に経験した肝細胞がんの治療成績
1994年(平成6年)7月1日の開院以来、2014年(平成24年)末までに九州医療センター肝胆膵外科において肝切除とMCNの二つの外科治療を行った肝細胞がんの患者さんは“2700名”を越えました。しかし、その中には、他の病院において肝切除、RFA、あるいはTACEなど何らかの治療を受けられ、その後再発あるいは再々発したものの、再発した肝細胞がんの発生場所あるいは肝臓の働きが低下しているために治療が困難と判断され当科に紹介され、治療を当院で行わせて頂いた患者さんも多く含まれています。


 最近、そのような患者さんが次第に多くなっています。ところが、この方々を含めて治療成績を検討しますと、私たちの選択した治療方針が正しかったのかどうかわからなくなる恐れがあります。そこで、今回はその方々を除き、初回治療から当科で受けられました肝細胞がん患者さんに限って治療成績を検討してみました。  初めから当科において外科治療(肝切除、MCN)を受けられた患者さんは2013年12月末までに1100名を超え、“1129名”となりました。なお、1129名全体の肝細胞がんの平均腫瘍径は31.3mm、平均腫瘍個数は2.37個でした。治療法別の平均腫瘍径・平均腫瘍個数は図表1にお示ししました。

 

 肝細胞がんの個数別に治療成績をグラフにしました。なお、その中の226名の方は4個以上の肝細胞がんを一度に治療しています(他の施設では個数が多いた先にも述べましたように、肝細胞がんは大部分が肝硬変などの慢性肝疾患を併存しているため、肝臓の働きは大なり小なり低下しています。肝臓の働きがどの程度障害されているかどうかを判断する目安が肝障害度(Liver Damage)です。肝障害度Aは肝機能正常〜軽度の肝機能低下、肝障害度Bは中程度の肝機能低下、肝障害度Cは高度の肝機能低下を意味します。

 そこで、当科で治療した肝細胞がんを肝障害度で分けてみますと、Aが54%、Bが42%、Cが4%でした。一般的に、肝切除を主体としている外科施設では、肝機能が良好である肝障害度Aの患者さんの割合が大部分を占めているようですが、当肝胆膵外科では肝障害度Aは約半数で、肝機能の低下したBとCの患者さんが半数近くを占めています(図2)。このように約半数を占めている肝臓の働きが低下している患者さんに対して、侵襲の高い肝切除を選択しますと、術後に肝不全などの重篤な合併症を発生する危険性が高くなります。このように肝臓の働きが低下している患者さんが多いことが、われわれの施設において肝切除が少なくMCNが多くなっている理由の一つです。

 

 現在、肝細胞がんの治療ガイドラインでは、『3cm以下3個以下の小さな肝細胞がんに対しては肝切除と局所治療(RFA、MCNなど)』が推奨されています。  当科で治療した3cm以下3個以下の小さな肝細胞がんの治療成績は、肝切除をした54名とMCNを施行した475名において累積生存率(どれだけ長生きできているか)に違いはありませんでした(図2-1)。治療後の無再発生存率(次の再発が出てくるまでの、無担癌でいられる時間)にも違いはありませんでした(図2-2)し、局所再発率(治療した周囲から再発してくる率)にも差はありませんでした(図2-3)。つまり、当肝胆膵外科において、肝切除とMCNは同じ治療として取り扱ってよいことがわかりました。“肝機能が悪くて切除が出来ない”時、切除と同等の治療・MCNを選択すればよいわけです。ところで、現在我が国では内科ではRFAが、また外科では肝切除が一般的に選択されています。肝切除を行っている外科施設では、肝臓がどの程度働いているかの評価は、肝切除を行っている外科では我が国の原発性肝がん取り扱い規約で用いられている“肝障害度分類”が用いられています。しかし一方、RFAを行っている内科ではこの肝障害度分類ではなく、世界的に用いられている“Child-Pugh分類”が用いられています。比較する分類が違うのでは、どの治療法が優れているのかよくわかりません。  そこで、みなさんにMCNはどの程度の治療成績が得られているか、また同じ局所治療法であるRFAとの差があるのかないのかをわかっていただくためにあえてRFA の治療適応である3cm以下3個以下の肝細胞がんの“肝障害度分類”“Child-Pugh分類”の両方でのMCNの治療成績を出してみました。

 




 その結果、“肝障害度分類”Aの230名の5年生存率は83.2%、Bの223名で64.2%、そして、かつては肝障害度Cでは肝細胞がんの最初の治療をして3~5年長生きできる方は一人もいない時代もありましたが、今は3年生存率50%、 5年生存率30%となりました(図3-1)。
 3cm以下3個以下の肝細胞がんのChild-Pugh Aの348名の術後生存率は5年で79.8%でした。また、Child-Pugh Bの127例の術後生存率は5年で51.0%でした(図3-2)。RFAを多数行っている施設が治療対象としている肝細胞がんはChild-Pugh Aが80%占めており、また5年生存率は60〜65%と報告されているようですので、われわれのMCNの治療成績がRFAと比較してもとても良好であることがご理解いただけるかと思います。

 


 ただ、MCNは、肝表面に存在している肝細胞がんであれば、侵襲の少ない内視鏡下手術が可能ではありますが、今まで行ってきたMCNの大部分、特に最近行っているnew MCNでは、先に述べたように色々な処置を必要としますので、右肋間を5~8cm程度小切開する、あるいは開腹術を必要とします。患者さんは“この手術するということ”が最大のネックとなっているものと考えています。皆さんが手術を受けたくないと言われるお気持ちは十分に理解できます。しかし、当肝胆膵外科では、創の大きさよりも、まずは、きちんと肝がんを治すことが最優先と考えています。  また、現在、肝細胞がんの治療ガイドラインでは、『4個以上多発している肝細胞がんに対しては、肝切除やRFAではなく、抗癌剤を投与する抗がん剤肝動注療法や癌に栄養を送る血管に詰め物をする肝動脈塞栓術(TACE)を選択すること』が推奨されています。実際、TACEや肝動注療法だけしか選択できないほどの進行肝細胞がんであればやむをえないと思いますが、4個以上の多発肝細胞がんに対して局所療法が適応可能であれば、当科ではMCNを第一選択肢の治療法として選択しています。

その理由は、1.肝細胞がんは転移再発だけでなく、多中心性発がんの可能性が高いこと。2.肝細胞がんの局所コントロール能力はMCNがTACEよりはるかに高いこと。3.4個以上の多発肝細胞がんに対して、第18回全国原発性肝がん追跡調査報告でのTACEの5年生存率は20%程度ですが、当院でMCNを選択した4個以上の多発肝細胞がん202名の5年生存率は49.5%と良好であること(図4)。4.初回から安易にTACEなどを選択すると、肝動脈が傷害され閉塞してしまう恐れがあり、TACEを選択したい、あるいはTACEしか選択できなくなった頃には肝動脈が閉塞してしまって治療ができないことが多々あることからです。

 

 さらに、近年、肝細胞がんにも“生体肝移植”が普通に行われる時代になりました。昔は肝細胞がんに対して肝移植を行ってもあまり良い成績は得られない時期もありましたが、その原因は他の治療法がどれも行えなくなり最終的な治療法として行われていたためと考えられます。ところが、イタリアよりミラノ基準内(腫瘍径が3cm以下で3個以内の場合と、最大腫瘍径5cm以下の腫瘍が1個ある場合)で肝移植を行うと、良好な治療成績が得られるとの報告がなされ、我が国でもミラノ基準内の肝細胞がんに対しては肝移植が保険適応され、盛んに生体肝移植されるようになりました。

  そこで、当センター外科で治療した肝細胞がんの中でミラノ基準に該当する患者さんの治療成績をみてみました。MCN治療をした患者さんの中で、ミラノ基準に該当された方は572名ありました。その累積生存率は1年97.7%、3年84.7%、5年69.9%であり、生体肝移植と比較してひけをとらない治療成績が得られていることがわかりました(図5)。生体肝移植には肝臓を提供する人(ドナー)が絶対必要ですし、また肝臓をもらった方(レシピエント)も免疫抑制剤を長期に服用する必要があります。さらに術後合併症やコストなど様々な問題なども生じる可能性があります。肝機能が著明に低下した肝障害度Cの患者さんにはMCNをはじめとした現在の外科治療あるいは内科治療を総動員してみても長期生存が難しいですので、生体肝移植が妥当であると考えていますが、すべての患者さんが生体肝移植を受けることは難しいと思います。生体肝移植がどうしても受けられない場合には、ほぼ同じ生存率が得られている当科で、あきらめずに治療していただけると良いのではと考えています。
 最後に肝癌取扱い規約Stage別のMCN治療成績をご提示します(図6)。治療方針・治療成績を明確に打ち出しているのは、当科がほかに負けない考えと姿勢で肝がんと闘っている自信の現れでもあり、またさらにその結果を向上していくための挑戦の宣言でもあります。