消化管外科

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直腸癌に対する腹腔鏡手術


日本人の大腸癌の死亡率は年々上昇しており、女性の癌臓器別死亡率では大腸癌が1位となっています。大腸癌の中では直腸癌の予後は不良で、手術によるQOL低下もきたしやすい領域です。従って、直腸癌に対する治療法や治療成績の改善が求められています。
大腸癌に対する腹腔鏡下手術は、本邦では1992年に早期癌に対して初めて施行されて以来、その低侵襲性から急速に普及し、現在は進行癌まで幅広く施行されています。しかし、直腸癌に対する腹腔鏡下手術は手術難度が高く、標準手術として定着しているとは言えず、実施施設は限られているのが現状です。
しかし、腹腔鏡手術(写真1)には、開腹手術に比べて体への負担が少なく、術後の回復が早いという長所の他、直腸癌手術のような開腹手術では見づらい深部や狭い部位も拡大されてよく観察できるといった長所があり、明瞭な観察、繊細な操作が可能となります(写真2)。その結果、開腹術に勝る精密なリンパ節郭清や肛門温存率の向上(人工肛門の回避)、手術後のQOL維持には不可欠な排尿・排便、性機能をコントロールする神経の温存など、質の高い手術(機能温存手術)が可能となります。つまり直腸癌は腹腔鏡下手術のメリットを最大限に生かせる対象と考えられ、当科では直腸癌に対しても腹腔鏡下手術を積極的に行っています。


たとえば写真3のような肛門に近い下部直腸癌に対する手術においても、良好な視野のもと安全な直腸の剥離と切離、器械吻合が可能です。
また写真4のように、肛門に接する腫瘍に対しては、内肛門括約筋切除術による肛門温存手術を行いますが、開腹手術と比較すると腹腔鏡下手術では腹腔内から骨盤底までの十分な剥離が行える結果、会陰側からの剥離操作や結腸肛門吻合も容易となり、括約筋の機能障害も少なくなります。


一方、進行下部直腸癌に対する手術においては骨盤腔のリンパ節郭清(側方郭清)が必要となる場合がありますが、これも腹腔鏡下に行っております。側方郭清においては術後の排尿障害、性機能障害を起こさないために自律神経の損傷を避けることが重要ですが、腹腔鏡により神経を温存しつつ十分なリンパ節郭清を行うことができます(写真5)。

このように腹腔鏡は直腸癌手術に新たな発展をもたらしましたが、鏡視下手術は進化し続けています。3Dカメラシステムによる手術やロボット支援下手術によってさらに精緻な手術が可能となり治療成績の向上が期待されています。
低侵襲手術や機能温存手術の要望は増え続けており、当科では今後も最新の技術を取り入れながら、直腸癌のみならず消化器癌全般に対する腹腔鏡下手術を拡充させていく方針です。