肝臓センター

肝細胞がん

1 肝細胞がんとは?

1)肝臓は身体のどこにあってどのような働きをするの?

 肝臓はお腹の右上腹部に位置しています。大切な臓器ですから、ふだんは肋骨によって守られています。上(頭側)は横隔膜によって肺や心臓と隔てられ、左側には胃があります。下(足側)には右の腎臓があり、成人では1200〜1500gと体内で最大の臓器です(図 I -1)。その主な働きは、腸で吸収された栄養分を利用して体に必要な本当の栄養素に切り替えたり(要るモノを作って)、体にとって不要な物質の代謝や毒素の解毒を行う(要らないモノを片付ける)などです。つまり肝臓は体にとっては大切な『化学工場』なのです(図 I -2)。

2) 肝臓がんについて

 肝臓がんとは大きく分けて、原発性肝がん(肝臓を構成する細胞から発生したがん)と転移性肝がん(他臓器のがんが肝臓に転移したがん)の2つがあります(図 I -3)。原発性肝がんには、肝細胞から発生する『肝細胞がん』と、胆汁の通り道である胆管の細胞から発生する『胆管細胞がん』の二種類があります。原発性肝がんのうち、肝細胞がんが95%を占め、また胆管細胞がんが約4%を占めています。残りの1%には、小児の肝がんである肝細胞芽腫、成人での肝細胞・胆管細胞混合がん、未分化がん、胆管嚢胞腺(たんかんのうほうせん)がん、カルチノイド腫瘍などの珍しいがんが含まれます。ですので、一般的に成人では、肝臓がんと言った場合には「肝細胞がん」を意味しています(図 I -4)。
 転移性肝がんは、肝臓以外の臓器に出来たがんが血液の流れに乗って肝臓に転移してきたもので、その多くは胆道・膵臓・大腸・胃・乳腺にできたがんからの転移です(図 I -5)。転移性肝がん(あるいは肝転移)は、肝臓にありながら、もともと出来た部位のがん(原発巣と言います)の性格を持っています。ですから、治療も原発巣に有効な治療を選択することになります。例えば、大腸がんからの転移性肝がんには、大腸がんに効く抗がん剤を使うことになります。

年齢別にみた肝細胞がんの罹患(りかん)率は、男性では45歳から増加し始め、70歳代に横ばいとなり、女性では55歳から増加し始めます。年齢別にみた死亡率も同様な傾向にあります。いずれも男性のほうが高く、女性の約3倍の頻度となっています。また、罹患率の国内の地域比較では、東日本より西日本のほうが高い傾向にあります。とくに、九州北部は肝細胞がんの多い地域の一つと言えます。

3) 肝細胞がんと肝炎ウイルス

 肝細胞がんは主に肝炎ウイルスの持続感染が原因となって発症します。肝炎ウイルスにはA、B、C、D、Eなどさまざまな肝炎ウイルスが存在していますが、肝細胞がんと関係があるのは主にB、Cの2種類です(図 I -6)。B型あるいはC型肝炎ウイルスの持続感染によって、肝細胞で長期にわたって炎症と再生がくり返されるうちに、肝臓は慢性肝炎から硬い肝硬変へと変化し、さら肝細胞がんが発生します(図 I -7)。
 I 2章で肝細胞がんが九州北部に多いとお話しましたが、これは肝細胞がんの主要因であるC型肝炎ウィルス(HCV)に感染している割合が、九州北部で高いことと関連しているのです。なお、日本では肝細胞がんの原因の7割が、このC型肝炎ウィルス感染を背景にして発症しますが、中国や韓国ではそのほとんどがB型肝炎感染を背景にしているなど、各国によってその原因は若干異なります。

当センターで治療をする肝細胞がんの患者さんの約80%がC型肝炎ウイルス、約10%がB型肝炎ウイルスに感染した方です。ですので、肝炎ウイルスに感染している方は肝細胞がんに注意しておく必要があります。とはいうものの、この後に述べますように、肝臓は『沈黙の臓器』ですので、ご自分だけで気をつけていても、肝細胞がんの早期発見にはつながりません。  なお、当センターの肝細胞がんの患者さんの原因の残り10%として考えられるものを、図 I -8に示しておきます。たとえお酒を飲まなくても、メタボな方は肝細胞がんに注意する必要があります。

4) 肝細胞がんの症状

 今まで一度くらいは「肝臓は沈黙の臓器」という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。なぜなら、肝臓は本当に具合が悪くなるまで、ほとんど症状が出ない臓器なのです。かなり病気が進んだ状態まで元気でいられるという利点がある反面、病気が進行するまでわからないという怖さがあります(図 I -9)。
 肝細胞がん自体に特有の症状があるわけではなく、慢性肝炎や肝硬変が進行すると、これが症状となって現れます。例えば、食欲不振、全身倦怠感、浮腫(むくみ)、腹部膨満感、尿の濃染、黄疸(おうだん)、吐下血、突然の腹痛、貧血症状(立ちくらみやめまいなど)などが挙げられます。ですが、黄疸や腹水というのは末期に近い症状で、これらが出た時には、肝硬変あるいは肝細胞がんがかなり進行した段階にある可能性が高いのです。治療を受けて治るような状態で発見されるような肝細胞がんには、特に自覚症状はありません(図 I -10) 。

5) 肝臓がんの検査方法

 では、どのようにして、肝細胞がんに注意しておくべきなのでしょうか。残念ながら肝細胞がん自体を完全に予防する薬はありません。
 治せる状態で肝細胞がんを発見する、つまり、なんといっても早期発見が大切なのです。肝臓がんになりやすい方々、すなわち、ウイルス性肝炎や肝硬変にかかっている方々では、血液検査でAFP(アルファフェトプロティン)やPIVKA-II(ピブカ・ツー)などの肝細胞がん特有の「腫瘍マーカー」を測定したり、超音波検査(エコー検査)を中心とした各種画像診断を定期的に受けることが何よりも大切です(図 I -11)。

6) 肝細胞がんの広がり(進行度、ステージ)

 肝細胞がんの進行程度(病期)を大まかに示すものとして「ステージ分類」があります。これは腫瘍の「大きさ」、「数」、「血管・リンパ管への浸潤(がんが血管・リンパ管の中に入り込んでいる状態)」「他の臓器への転移」の程度や有無により、病気の進み具合を数字で表したものです。  ステージ分類は1から4までの4段階に分けられており、数字が大きいほどがんが進行していることを意味します(図 I -12)。
 なお、肝細胞がんの背景にある肝臓の働きを把握する指標として「肝障害度」分類という分類があります。「肝障害度」は、A、B、Cの3段階に分けられます。AからB、Cの順序で肝障害の程度が強いことを表しています(図 I -13)。 「肝障害度」がA、つまり肝機能が良好な場合は、肝細胞がんの治療に於いて、肝機能が理由で治療が制限されることはほとんどありません。ですが、「肝障害度」がCになると、肝細胞がんより、肝硬変そのものの進行により、既にきちんと肝臓が働いていないことを意味します。このような場合には肝細胞がんの積極的な治療は非常に難しい事がほとんどです。
 肝機能が低下している場合の治療として、次項「2 肝細胞癌の治療」でマイクロ波凝固壊死療法をご紹介します。

肝細胞がんの治療

  

1) はじめに

 肝細胞がんに対して最も根治性が期待できる最高の治療法は、昔も今も常に“肝切除である”と頑固なほどに信じられてきました。しかし、肝細胞がんは慢性肝炎、肝硬変と肝障害が進行する過程で発生してくるために、大部分の肝細胞がんの肝機能は少なからず低下している場合がほとんどで、肝切除を行えるだけの肝予備力が残っている肝細胞がんの患者さんは極めて少ないのが現状です。
 “肝細胞がんをきちんと治療したいが肝機能もまた出来るだけ温存したい”というジレンマの中から考案され普及してきた治療法が、腫瘍にエタノールを注入するエタノール注入療法(以下PEIT)や刺入した針(電極)からマイクロ波やラジオ波を発振させて、発生した熱で腫瘍を凝固壊死させるマイクロ波凝固壊死療法(microwave coagulo-necrotic therapy以下MCN)、ラジオ波焼却療法(以下RFA)などの“局所療法”です。最近では肝切除に取って代わる勢いでこれらの局所療法、特にRFAが爆発的に普及してきました。当初、歴史の浅かったRFAも、日本に導入されて、早や10年を過ぎ、最近では長期成績も報告されるようになり、RFAが安全かつ有効な治療の一つであることがわかりました。
 ところで、当肝臓病センター外科ではRFAが世に出るずっと以前からMCNを得意として治療に応用してきました。MCNの歴史は成人式を迎えるほど長く、また九州医療センター開院から現在までに2000人以上の患者さんに行ってきましたが、肝切除よりはるかに低侵襲で、なおかつ肝切除と同等の治療成績を得られることがこれまでに明らかとなりました。
 そこで、このホームページでは、まずこの“MCN”がどのような治療法であるのかをご紹介した上で、MCNと肝切除を巧みに使い分けることにより得られている現在の当センターの肝細胞がんの治療成績を呈示したいと思います。

2) MCN(microwave coagulo-necrotic therapy)とは?

 MCNとは、肝臓の表面より肝細胞癌まで細い針(電極)を穿刺して、これよりマイクロ波(皆様の使用されている電子レンジとまったく同じ原理)を発振させ、その際に生じた誘電熱により肝細胞がんを焼灼する(正確には凝固壊死させると言います)治療法です(図 I 2-(1))。1988年1月7日当肝臓病センター長の才津医師が久留米大学在職中に、それまで肝切除の切離面からの出血を防ぐために切離線上をあらかじめ焼いておくための機器として使われていたマイクロターゼを用いて、腫瘍そのものを焼灼(凝固壊死)したのが始まりです。(後に保険適応となりmicrowave coagulation therapy略してMCTという呼称で全国に広まりました。)
 このMCNという治療法の優れている点は、(1)切除しないから出血がほとんど皆無であること。(2)肝切除と異なり、肝機能がほとんど温存できること。(3)肝切除と比較して身体への侵襲が小さいことなどです。それにも拘らず(4)肝切除と同等の治療効果が望めることです。これは、つまり肝炎・肝硬変のために肝機能が著しく低下しているため肝切除が不可能と宣告された方に対しても、MCNという治療法であれば治療可能であることを意味します。
 MCNに際しては2種類の針(電極)を使い分けています。まず、肝表面に存在する肝細胞がん(表在性肝細胞がん)に対しては直視下に短い針(通常電極)を腫瘍に直接穿刺します(図 I 2-(2))。また一方、肝臓の真ん中に存在する肝細胞がん(深在性肝細胞がん)に対しては長い針(深部電極針)を肝表面から針の行方をエコーで見ながら(エコーガイド下に)穿刺します(図 I 2-(3))。そして、穿刺した電極からマイクロ波を発振させることで腫瘍を焼灼(凝固壊死)させます。1回の穿刺凝固により、短針では針長×径1cmの円柱状の、深部電極針では先端に1.5×1×1cmのフットボール状の範囲が凝固できますので、腫瘍の大きさに応じて、全ての範囲が充分カバーできるまで、穿刺と凝固を繰り返すことになります(図 I 2-(4))。
 なお、一個の腫瘍に対して複数回の穿刺と凝固をくり返す必要があるため、MCNも肝切除と同様に全例、全身麻酔下に施行しています。
 MCNには3つのアプローチの方法があり、腫瘍の個数、大きさと存在している位置などによって使い分けています。一つは肝切除と同じく大きく開腹して行う通常(開腹下)MCN。もう一つは5〜10cmという小さな切開で行う小切開下MCN。またさらに皮膚をほとんど切らない“内視鏡下手術”として行う(腹腔鏡下あるいは胸腔鏡下)MCNがあります(表 I 2-(1))。

3) 肝細胞がんに対する治療方針

 例えば、胃に胃がんができますと、場所によっては胃を全部切除しなくてはならないことがあります。しかし、胃のかわりに小腸を持ち上げてつなぐことにより、食べ物の通り道は確保され日常生活に特に大きな支障はありません。
 ところが、肝臓の場合には胃と同じようにはいきません。肝臓は体にとって必要な物質をつくり、不要なものを分解代謝するという大事な“化学工場”であり、この代わりを果たす臓器は他にはありません。そのため、肝臓をそっくり取り去ることはできません。このような肝臓の働き(これを肝機能といいます)は損ねたくない、しかし肝細胞がんはきちんと治療したいという二つの相反する目的を満足させるためにMCNは生まれました(図 I 2-(5))。
 肝細胞がんを含めて肝臓を大きく切除することにより肝細胞がんは治療できますが、そのために肝機能が著しく低下してしまったり、最悪の場合生命が維持できなくなる“肝不全”という状態になったりしては治療の意味がありません。一般に、肝臓の中に肝細胞がんのできる方の80%がB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに罹患しています。また、残りの10%はアルコールや自己免疫の異常などによって、慢性肝炎や肝硬変という傷んだ状態にあるため、ただでさえ正常に比べると肝機能が低下した状態にあります。肝切除の術前には、残る予定の肝臓だけでその後も十分な肝機能が果たせるか入念な検討がなされますが、もともと肝機能が低下している患者さんにとって肝切除はなかなか高いハードルと言わざるをえません。肝細胞がんを治療するにあたって、肝機能が十分保たれていない時には肝切除という治療法は選択できませんが、そういった場合、MCNなら肝機能をほとんど低下させないために選択が可能な時が多いのです。
 また、肝臓内に肝細胞がんが多数認められ、すべての肝細胞がんを切除すると肝機能がもたないような場合にも肝切除は選択できませんが、MCNでは肝細胞がんの部分だけ焼灼(凝固壊死)できますので、多発する肝細胞がんに対しても治療が可能となる場合が多いのです。
 当センターでもMCNを始めた頃は、やはり肝切除を第一選択肢の治療法と考えており、MCNは補助的な治療法と位置づけてきたこともありました。しかし、先に述べたMCNの利点、さらに後に述べるMCNの治療成績などからみて、現在は肝切除よりMCNの方が優れていると考えており、最近はMCNを肝細胞がんの第一選択の治療法と認識しています。肝切除は肝予備力が充分保持されている5cm以上の大きな肝細胞がんと、肝臓の辺縁に存在しておりMCNより肝切除が簡単と判断された場合に施行しています。
 当センターの肝細胞がんに対する治療方針は図 I 2-(6)に示す如くとなります。肝機能の程度と相談しつつ、腫瘍径とその個数によって肝切除とMCNとを使い分けています。これに、腫瘍の位置、患者さんの年齢や合併疾患の有無などを加味して、個々の患者さんに最良最適な治療法を選択するように心がけています。
 例えば、複数個の腫瘍が散在して認められる場合には主に右の肋骨の下を大きく切開する右肋弓下切開という方法にて開腹し、全ての腫瘍に対してMCNを施行します(図 I 2-(7))。 また、肋骨と肋骨との間を一カ所小さく開けただけで処置可能な場合には小開胸下MCNを施行します(図 I 2- (8))。
 現在、大部分の病院では肝細胞がんが多数認められる場合には、肝切除ですべての肝細胞がんを切除出来ないため、初めから抗癌剤の投与や癌に栄養を送る血管に詰め物をする治療しかないと説明を受けるかもしれません。しかし、当センターであれば、もしかするとMCNという手術が可能かもしれません。  MCNの利点については、簡単に図 I 2-(9)にまとめてみました。

4) 肝細胞がんの治療成績

 九州医療センターは平成6年7月1日に開院致しましたが、平成20年末までに治療した肝細胞がんの患者さんは2000名近くとなりました。その中には他院において何らかの治療を受けられ、その後再発あるいは再々発し、その治療を当院で行ってほしいとご紹介を受けた患者さんも多く含まれています。この方々を含めて治療成績を検討しますと、私たちの治療方針が正しかったのかどうかがわからなくなる恐れがあります。
 そこで、今回はその方々を除き、当院肝臓病センター外科において初回時より治療を受けられました肝細胞がん患者さんに限って治療成績を検討してみました。
 対象となる患者さんは平成19年12月末までに当院で初回治療を受けられた肝細胞がん695名の患者さんで、その平均腫瘍径、平均個数は表 I 2-(2)に示すごとくとなりました。なお、その中の152名の方は4個以上の肝細胞がんを一度に治療しています(他の施設では個数が多いために手術の適応は無いと説明を受けるかも知れません。そして、その場合には初めから抗癌剤の投与や癌に栄養を送る血管に詰め物をする治療が選択されることになります)。2005年に出された厚生労働省診療ガイドライン内の“肝細胞がんの治療アルゴリズム”でも4個以上の肝細胞がんにはそれらの治療法しか推奨されていません。ちなみに、そういった治療を行った場合の5年生存率は全国集計では約20%程度です(第17回全国原発性肝癌追跡調査報告)。
 次に、背景となる肝機能の内訳をみます。なお、肝機能は肝障害度(Liver Damage)で表しますが、肝障害度Aは肝機能正常〜軽度の肝機能低下、肝障害度Bは中程度の肝機能低下、肝障害度Cは高度の肝機能低下を意味します。その内訳は肝障害度Aが46.7%、Bが49.2%でした。肝切除主体の他施設の外科では肝障害度Aの患者さんの割合が8〜9割を占めているのに比較して、当センターでは肝障害度Bの方にも外科治療を適応していること、そしてそのように肝機能の低下した方が手術を受けられた方の半数以上を占めていることが特徴です(図 I 2-(10))。
 以上のように多発した肝細胞がんの患者さんや肝機能不良の患者さんが多く含まれておりますが、695名全体の累積生存率は1年96.7%、3年76.7%、5年58.9%、7年40.4%、10年29.1%であり(図 I 2-(11))、良好な治療成績が得られました。
 肝細胞がんの個数別に治療成績をグラフにすると、前述のように4個以上の肝細胞がんの治療成績は全国的にみて5年生存率で約20%程度となりますが、当院ではこれらもMCNで治療することにより、40%を超える5年生存率を得ています(図 I 2-(12))。
 現在、内科を中心に広く治療に使用されているRFAの一般的な適応は、肝細胞がんが3cm以内3個以下の患者さんです。このRFAの適応範囲に限って、MCNの治療成績を見てみますと、その累積生存率は1年97.9%、3年84.1%、5年68.1%、7年49.7%、10年35.8%でした(図 I 2-(13))。
 次に、肝障害度別に治療成績をグラフにしました。肝障害度Bの患者さんの治療成績は肝障害度Aの患者さんの治療成績と遜色ない結果が得られました。これは肝障害度Bの患者さんにもMCNを中心とすることで局所療法を可能とし、かつ肝機能を温存することで、肝障害度Aに劣らず長期間肝機能が維持できていることを意味するものと思われます(図 I 2-(14))。
 肝細胞がんの進行度別に治療成績をグラフにすると、図 I 2-(15)となります。
 さらに、MCNの守備範囲を知っていただくために、腫瘍径を横軸に、腫瘍個数を縦軸に、MCNを行った患者さん全員をプロットしてみました。一般に肝切除の適応と考えられているのは“腫瘍個数が1〜3個の肝細胞がん”であり、またPEITやRFAなどの局所療法の適応とされるのは“腫瘍径3cm以下3個以内の肝細胞がん”です。前述のガイドラインでも同様に推奨されていますが、われわれの行っているMCNは肝切除の適応あるいはPEITやRFAなどの局所療法の適応をはるかに越えたさらに広い守備範囲を持つことがわかります(図 I 2-(15))。
 ところで、最近、肝細胞がんと肝機能の両方に対して治療できることから、肝細胞がんの新しい治療法として“生体肝移植”が注目されています。以前は肝細胞がんに対して肝移植を行ってもあまり良い成績は得られていませんでした。ところが、欧米よりミラノ基準内で肝移植を行うと、良好な治療成績が得られるとの報告がなされ、我が国でもミラノ基準内の肝細胞がんに対しては生体肝移植が保険適応され、盛んに生体肝移植されるようになりました。
 そこで、当センター外科で治療した肝細胞がんの中でミラノ基準に該当する方々の治療成績をみてみました。なお、ミラノ基準該当例とは肝細胞がんの最大腫瘍径が3cm以下で3個以内の場合と、最大腫瘍径5cm以下の腫瘍が1個ある場合をいいます。当センター外科で治療をした患者さんのうち、ミラノ基準に該当された方は411名ありました。その結果、その累積生存率は1年98.1%、3年82.9%、5年69.6%であり、肝移植と比較してひけをとらない治療成績が得られていることがわかりました(図 I 2-(16))。確かに、治療成績のみでは単純に比較できない面もありますが、生体肝移植には肝臓を提供する人(ドナー)が絶対必要ですし、また肝臓をもらった方(レシピエント)も免疫抑制剤を長期に服用する必要があります。さらに術後合併症やコストなど様々な問題なども生じます。肝機能が著明に低下した肝障害度Cの患者さんにはMCNをはじめとした現在の外科治療あるいは内科治療を総動員してみても長期生存が望めないことから肝移植が妥当と思われますが、当センターの治療成績を見る限り、肝障害度A、Bでは生体肝移植の適応決定は今もなお、慎重にされるべきではないかと考えています。
 最後に、図 I 2-(17)に2005年に出版された厚生労働省診療ガイドライン内の肝細胞がん治療アルゴリズムの中で、当センターの治療成績からMCNの適応が妥当あるいは可能であると考えられる範疇をお示ししました。現在、われわれは肝機能の程度と相談しつつ、腫瘍径とその個数によって肝切除とMCNとを使い分けていますが、最近では肝障害度Aで腫瘍径5cmを超える肝細胞がんには肝切除を第1選択肢とするものの、それ以外にはMCNを優先して良いのではないかと考えています。