肝臓センター

胆膵領域

1 膵癌

1)はじめに

 膵臓がんは、がんの中でも最も悪性度が高いがんの一つと考えられています。その理由は、症状が出にくいこと、膵臓自体が厚さ約1cmと非常に小さな臓器であるため、がんが大きくなるとすぐに膵臓の外にがんが出て行きやすいことから、手術した段階で予想以上に進行していることが多く、予後も不良であると考えられています。大きさ2cm以下の膵臓がんは比較的予後良好であり、2cm以下での発見が望まれますが、2cm以下で発見されることは非常にまれです。また、診断が難しく、初期症状は現れにくいため、多くの場合は総胆管浸潤や十二指腸浸潤、リンパ節転移を生じているなど、がんが進行した段階で手術されることが多いことも膵臓がんが予後不良と考えられている一因です。
 なお、膵臓の頭部にがんが発生する膵頭部がんでは胆管狭窄や閉塞を起こし、黄疸が契機となり発見されることが多い。後でも述べますが、膵頭部がんでは体への侵襲が大きな膵頭十二指腸切除が必要であるため、当院では黄疸が出ている場合は、術前にPTBD(経皮的に肝臓を刺して流れていかない胆汁を体外に出してやる方法)を行って黄疸を治してから手術を行うようにしています。

2)膵臓がんの治療法

 膵臓がんは存在している部位によって治療法が異なります。膵頭部にある場合、膵頭十二指腸切除術が基本術式となります。一方、膵体部・膵尾部に存在する場合、膵体尾部切除術(脾臓合併切除)が基本術式となります。 膵臓は小さな臓器ですが、十二指腸や胆管と接して存在しているため、膵頭部がんの場合には膵臓を切除するだけでなく、十二指腸や胆管を膵臓と共に切除して、それぞれ再建するという大きな手術が必要となります。また、周囲に重要な門脈などの血管が走行していることや、膵臓で作られる膵液(消化液)は漏れますと周囲の臓器を溶かしてしまうため、難易度の高い手術であり、非常に緻密な技術が必要とされます。膵頭十二指腸切除の適応は、肝転移を初め遠隔転移が無いこと、主幹動脈へ腫瘍が及んでないことです。門脈(腸管から膵臓の背側を通り肝臓へ流入する血管)への腫瘍浸潤の場合は、門脈合併切除にて治癒切除が可能となります。
 膵体尾部がんの場合は、脾臓を合併切除することが多いものの、他の臓器はあまり切除しなくてすむため、膵頭十二指腸切除より格段に侵襲の少ない術式となります。脾臓は胎生期では造血臓器ですが、成人になると免疫担当臓器としての役割を果たしておりますが、脾臓摘出によるデメリットは少ないと考えられています。
 当肝臓病センターでは肝臓だけでなく、胆道や膵臓のがんに対しても専門的に手術を行っております。1994年当九州医療センター開院以来14年間で膵臓がんに対して根治手術が可能であった患者さんは73例でした。また、手術術式の内訳は、膵頭十二指腸切除は40例、膵体尾部切除術は33例でした。

3)膵臓がんの化学療法

 膵臓がんに対する化学療法は大きく分けて、術後再発予防のための補助化学療法と手術できなかった場合や再発してしまった時に行う化学療法があります。
 補助化学療法として、現時点ではジェムザール単剤で再発予防効果があることが海外の大規模研究でわかっており、手術後の病理組織診断から再発するリスクが高いと予想される方には、ジェムザールによる補助化学療法を行い好結果が得られるようになりつつあります。さらに、最近では進行・再発膵臓がんの化学療法として、このジェムザールに経口抗がん剤TS-1を加えた治療の効果が高いことが報告され期待されています。また、放射線治療に関しては、疼痛の緩和には有効でありますが、生存期間の延長効果には定まった見解がないのが現状です。
 現段階では、進行・再発膵臓がんに対する化学療法はなかなか難しいと言わざるを得ない状況ですが、当院ではジェムザールやTS-1を用いて何とか少しでも長く生きていてほしいと願いながら化学療法を患者さん方と共に行っています。ジェムザールやTS-1は比較的副作用が軽いため、ほとんどの方は週1回の外来通院で治療を受けられ、残りの時間は家庭で過ごすことが可能となっています。

2 胆道癌(胆のう癌、胆管癌、乳頭部癌)

1)はじめに

「胆道」は肝臓で作られた胆汁が肝臓から十二指腸まで流れていく道のことで、「胆管」を通って流れていき、「胆のう」では胆汁が一時的に貯蔵されており食事の刺激で胆汁が押し出されて、総胆管を通って「乳頭部」で十二指腸へ流れ出します。胆汁は、食物中の脂肪を乳化させて、膵液による脂肪の分解を促進します。胆道は、肝臓や胃十二指腸の背中側という体の中でも奥深いところにある器官ですが、消化に関わる非常に重要な働きを持っています。胆道系悪性腫瘍は、大きく分けると胆のうがん、胆管がん、十二指腸乳頭部がんに区別されます。

2)胆のう癌

I)胆のうがんについて

 胆のうにできる悪性腫瘍です。胆のうにはポリープなど良性腫瘍が多くみられますが、無症候性胆石症の約1%に悪性腫瘍が合併すると言われております。早期の段階での診断は、症状がないこと、胆のう自体が小さな臓器であり、良悪性の判断が困難です。胆のうポリープの最大径が10mmをこえると胆のうがんの可能性があり、15mmをこえると胆のうがんが強く疑われます。胆のうがんを起こす危険因子としていくつかの病気が知られています。胆石、胆のう炎、胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、原発性硬化性胆管炎、膵胆管合流異常症などです。症状は、胆石や胆のう炎を合併知っていると強い痛みや熱がでることもありますが、これはがん自体の症状ではなく、胆石や胆のう炎の症状です。がんが進行すると、肝臓、総胆管、十二指腸などにがんが及ぶと、腹痛などの症状が出てくることもあります。検査は、腹部超音波検査、MRCP, ERCP, CT, MRIが有用とされております。腫瘍マーカーは、CEA, CA19-9, CA125などが用いられます。胆のうがんの特徴としては、(1)胆のうは肝臓に付着してぶら下がっているため、肝臓へガン細胞が入り込みやすいこと、(2)周囲の神経浸潤をおこしやすいこと、(3)リンパ節転移を起こしやすいことがあげられます。がんの中でも悪性度が高いと考えられております。

II)胆のうがんの治療法

 胆のうがんの手術は、胆のうのがんの拡がりによっていろいろな術式が選ばれます。胆のう壁の浅いところでとどまっている場合は、胆嚢全層切除という胆のうのみを摘出するだけでよいと思われます。もっと胆のう壁深くに進行している場合には、拡大胆のう摘出術という標準的な手術となります。胆のうの静脈が肝臓に流れ込む肝床部というところまで切除する、胆のう全層切除+肝床部合併切除あるいは肝床部MCN焼灼や、肝臓の外側を通って十二指腸に至る胆管まで切除する、肝外胆管切除(総胆管の切除断端と腸管をつないで再建を要します)などが選ばれます。がんが肝臓に入り込んでいる場合は、胆のう摘出術+肝切除となりますし、膵臓の裏側や十二指腸までがんが広がっている場合は膵頭十二指腸切除が選択されることになります。手術で根治切除ができない場合は、化学療法の適応となります。化学療法については、後述しますので、胆道がんの化学療法をご参照ください。

3)胆管がん

I)胆管がんについて

 胆管にできる腫瘍は大部分が悪性腫瘍であると考えられています。総胆管に癌ができた場合、総胆管が閉塞して閉塞性黄疸によって気づかれることが多いと思われます。

II)胆管がんの治療法

 遠隔転移(肝転移、肺転移など)、腹膜播種がなく、切除により根治が可能と判断される場合、手術が第一選択となります。術式は、肝門部・上部胆管がんの場合は肝切除+肝外胆管切除が必要となります。中・下部胆管がんの場合は膵頭十二指腸切除が標準術式となります。上・中部胆管がんに対しては肝切除や膵頭十二指腸切除が望ましいですが、がんが限局した乳頭型でリンパ節転移を認めない場合は、肝外胆管切除のみを切除する縮小手術も選択されます。
 胆管がんの場合、閉塞性黄疸を伴うことが多く、閉塞性黄疸がある場合には、術前に黄疸の解除を行うことがあります。精査をかねて当院ではPTCDを術前に挿入して、胆管の腫瘍がどんな性状か精査しつつ、黄疸が低下してから手術を行います。化学療法については、後述しますので、胆道がんの化学療法をご参照ください。

4)乳頭部がん

I)乳頭部がんについて

 総胆管から十二指腸へ胆汁が流れ出るファーター乳頭と呼ばれるごく狭い範囲にできる腫瘍です。胆汁の出口にできるため、胆汁が十二指腸に流出できなくなり、閉塞性黄疸を早期から起こすことが多く、胆のうがん、胆管がんや膵臓がんなどと比較して手術後の予後は良好です。

II)乳頭部がんの治療

 乳頭部がんは早期(腺腫内がん)であれば、内視鏡下に切除を行うこともまれに可能ですが、閉塞性黄疸を来すような状況であれば、ほとんどの場合、手術による切除が第一選択となり、膵頭十二指腸切除が適応術式となります。

5)当院における胆道がんの治療

 当院設立1994年以来2007年末までの14年間で、胆道がん110例(胆のうがん50例、胆管がん37例、乳頭部がん23例)に対して根治術手術を行っております。詳細な術式については、図表を参照してください。特に、難易度の高い手術である膵頭十二指腸切除は膵臓がんまで加えると76例施行しておりますが、最近の5年間はほとんど合併症もなく、約1ヶ月のクリテイカルパスという予定表に従って退院できるまでに安全な手術となっています。

6)胆道がんの抗がん剤治療

 わが国において標準的な抗がん剤治療は確立しているとはいえません。胆のうがん、胆管がんは、たとえ根治切除が可能であった場合でも、早期に再発してくることが多く、補助化学療法(手術後に再発を予防するための抗がん剤治療)による効果が期待されてはいますが、確立された方法はまだありません。  しかしながら、胆道がん再発や切除できなかった胆道がんに対して有用性が期待されている薬剤として、膵臓がんと同じようにジェムザールや、細菌保険適応となった経口抗がん剤TS-1があり、手術後の病理組織診断で再発リスクが高いと考えられた場合、これらの薬剤ジェムザールやTS-1を用いた補助化学療法を行っています。残念ながら術後再発した場合や、切除できない胆道がんに対しては化学療法は有用と考えられています。上述したように、標準的な化学療法は確立していませんが、当院では有用と考えられるジェムザールやTS-1による化学療法を行っています。その他、胆のうがんでは、場合によっては抗がん剤肝動注療法(肝動注の項を参照してください)を行う場合もあります。