消化器センター

大腸癌

近年、我が国における大腸癌は増加傾向にあり、癌における死因としては、肺癌、胃癌について第3位になっています。増加の原因は主に食生活を中心とした生活習慣の欧米化によるものと考えられ、今後、益々大腸癌は増加することが予想されています。

A. 大腸癌と大腸ポリープの関係

 専門的には大腸癌と大腸ポリープを同じ土俵で話すことは出来ませんが、一般的なこととして説明します。 大腸ポリープとは、大腸に発生した様々な隆起性(凸型)病変の総称です。ですから、図1に示すように、大腸ポリープの一部には大腸癌も含まれていますが、全てが癌というわけではありません。またポリープの中には将来癌になるものもあるのです。現在の医学ではポリープの中から将来癌になる病変だけを完全に同定することは出来ません。ですから、ポリープの大きさ、形、あるいは検査で採取したポリープの一部を顕微鏡で観察して、総合的に癌になる可能性が高いと判断したら予防的に切除します。大腸ポリープは比較的小さいものが多いので、図2に示すように、内視鏡(大腸カメラ)で切除が可能で、手術になる頻度は低いようです。一方、大腸癌はポリープより大きいことが多く、転移の可能性も考慮しなくてはいけません。内視鏡で切除できるものもありますが、ポリープに比較して手術で治療する頻度が高くなります。また進行した大腸癌には手術だけでなく、放射線療法や化学療法(抗癌剤治療)等も加味されます。これらの治療は、それぞれの癌の進行に応じて、 I. 癌を治すこと、 II. 本人の生活の質を保つこと、の両面から慎重に決定していきます。

B.大腸癌(大腸ポリープ)の治療について

 大腸は図に示すように、結腸(盲腸、上行、横行、下行、S状)と直腸に分類し、それぞれの部位に発生した癌を結腸癌と直腸癌といいます。直腸は肛門に近いため、外科的治療をするにあたっては結腸と違うデリケートな問題があります。第一には解剖的な問題により直腸の手術が結腸より難しいことと、第二に肛門に近いために癌を切除する際、肛門を切除して人工肛門を作る可能性があることです。また、様々な機能をつかさどる神経も網の目のように張り巡らせています。図をみてわかるように解剖学的には直腸は大腸のわずかな部分を占めるに過ぎないのですが、残念ながら癌の好発部位で、その頻度は大腸癌全体の1/4から1/3を占めます。

1.直腸癌に対する治療
 従来の直腸癌に対する手術はお腹から直腸に到達する方法です。これらの術式は、長い間、全世界で行われ、膨大な経験と知識が蓄積されており癌を治療する手術としては安全性、予後が確立しています。当外科では進行した癌に対しては基本方針としてこれらの術式を行っています。その一方で、近年開発された新しい外科治療法も行っています。直腸の周囲には、排便、排尿機能や性機能に関与している神経が網の目のように張り巡らされていますから、お腹から癌を切除する手術は程度の差はあれ、これらの機能に影響を及ぼします。また前述したように、人工肛門造設も患者の皆様の生活の質を保つにはとても重要な問題です。最近、私達はこれらの問題を解決するために、経肛門的に癌を切除することに積極的に取り組んでいます(図)。経肛門的に切除出来れば、これら多くの問題が解決されます。癌は完全に取り除くことが原則ですから、現在は比較的初期の直腸癌に対してこの経肛門的腫瘍切除術を行っていますが、今後、放射線療法を加味して進行した癌にも適応を拡大していく予定です。次に直腸癌が肝臓、肺、膀胱などの他臓器に転移、浸潤している場合にも、消化器内科、放射線科、肝臓外科、呼吸器外科、泌尿器科、産婦人科、形成外科等の協力を得ながら積極的に治療を行っています。
 以上のことをふまえて、下図ような多種類の治療法で対処しています。

2.結腸癌に対する治療
 結腸癌の治療法も基本的には直腸癌と同じです。ただ肛門から距離があるために直腸に比べ、人工肛門や他の機能を考慮する頻度は減ります。直腸癌ほど様々な機能や複雑な解剖を考慮せずにすみ、そのために比較的シンプルな術式となります。こういう利点を生かして腹空鏡を用いた手術の頻度が直腸癌に比較して高くなります。腹空鏡を用いると従来の手術に比べてお腹の傷が小さくてすみます。その結果、術後の疼痛などが軽減され退院までの回復が早いという利点があります。

C.大腸癌の治療成績

 当科においては、前述したように患者の皆様個々の病態に応じた治療に心掛け、年間100例以上の大腸癌手術を行っています。図に当院外科における大腸癌の治療成績を示します。一般に癌の治療成績は治療を開始して5年後に生存している割合で示します(5年生存率)。当然、癌の進行度によって5年生存率は異なります。初期の進行度1では94.2%で、以下、進行度2、3、4ではそれぞれ87.3%、66.4%、24.6%となっています。これらの5年生存率は十分に全国レベルに達しています。

D.大腸癌手術に伴う合併症

外科治療は大腸癌に対する最も有効な治療法であることは間違いありませんが、身体にとっては、他の消化器手術と同様に、かなりの侵襲を与えることになります。どんな手術にも危険が伴います。その危険性(“合併症”と総称します)を可能な限り抑えるために、日々努力を続けております。この姿勢、意識の高さは当院開院前の20年以上前から続いており、そのお陰で他施設と比べてもかなり低い合併症発生率を達成しております。もちろんゼロにすることはなかなか難しいのですが、常にゼロを目指す姿勢だけは今後も継続していきたいと思っております。以下平成20年手術患者様の主な合併症の発症率をご紹介します。 まず、術後30日以内にお亡くなりになった患者様の割合は0.65%でした。他の合併症発症率は縫合不全(大腸を切除後に新たな通り道を造るためにつないだ大腸のつなぎ目にほころびが出来、周囲が化膿して様々なトラブルを起こす状態)0%、創感染4.8%、腸閉塞(お腹の中で腸が癒着して便の通りが悪くなる状態)5.9%、呼吸器合併症0.26%、術後出血0.65%、排尿障害(特に直腸癌の術後に起こりやすいのですが、前立腺が腫れている男性では一時的に起こりやすくなっています)2.6%でした。ただしいずれの例も重症化することなく回復されています。