前立腺癌総合治療センター

放射線治療

 全摘手術しない根治治療の方法ですので、身体への負担は比較的軽いと思われます。尿失禁はまれであり、性機能温存は比較的高いと思われます。十分な放射線が照射された場合の治療成績は全摘手術とあまり差はありません。しかし、前立腺を摘出するわけではありませんので、正確な癌の広がり具合を確認することが困難であり、また、放射線の治療効果の判定に時間を要するのが難点です。さらに放射線治療後、効果不十分であると判断されても、その後に前立腺摘出手術を施行することは一般に困難です。放射線治療はいわゆるやけどをつくる方法ですので、前立腺周囲の臓器にも放射線があたり、やけどの症状がでることがあります(放射線障害)。治療中および治療後の短い期間に生じる早期放射線障害と治療後、時間がたって生じる晩期放射線障害があります。早期放射線障害としては頻尿、排尿時痛、排尿困難などの尿路に関係するものと、肛門痛、下痢などの直腸に関係するもの、皮膚のびらんなどがありますが、ほとんどの症例では程度は軽いものであり、治療終了後、改善します。また、治療中は身体がきつかったり、船酔い気分がでたり、まれに白血球減少(感染症を起こしやすくなる状態)が起こることがあります。晩期放射線障害としては尿道狭窄、膀胱出血や直腸出血などがあり、まれに直腸潰瘍や穿孔(穴が開くこと)などの重篤な事態が発生することがありえます。この場合は処置が必要になりますが、治療に難渋することがあります。

放射線治療の方法としては外照射、組織内照射(ブラキテラピー・小線源療法)があります。

外照射

 最新の放射線外照射として強度変調放射線治療(IMRT)トモテラピーを含む)、重粒子線・陽子線治療があり、これらの治療は前立腺局所に絞って放射線照射ができ、今までの外照射に較べて治療成績が向上し、副作用を減らすことができると言われています。
IMRTは通常2カ月程度毎日治療のため通院が必要です。内分泌療法を一定期間併用することが多いようです。中・高リスク群ではIMRTより小線源療法の方がやや治療成績が良いという報告があります。
重粒子線・陽子線治療の治療成績は他の外照射に比べ良好な治療効果や晩期障害の頻度の減少が期待できます。2018年4月より保険適応となりました。
重粒子線治療の場合も通常一定期間内分泌療法を併用するようです。治療期間は週4回で3週間となっているようです。
 一方、かなり大きな局所浸潤癌では他の治療法が困難なことが多く、内分泌療法と併用で放射線外照射にて治療することが一般的です。
【利点】
  1. 外来通院可能
  2. 治療のため麻酔や体に傷をつける処置が不要
  3. 性機能障害が手術療法より少ない(5年経過すると40-50%程度に生じる)(なお、内分泌療法併用の場合、併用期間中性機能障害は生じます)
  4. 尿失禁は手術療法ほど生じない
【欠点】
  1. 治療期間が長い
  2. 放射線障害(晩期放射線障害は<10%・直腸尿瘻や直腸潰瘍 1%未満)

組織内照射(ブラキテラピー・小線源療法)


組織内照射は直腸内からのエコー画像を観察しながら、会陰(股の間の皮膚)から針を前立腺内に刺して、前立腺内から放射線を照射する方法です。放射線外照射と異なり、病巣部(前立腺)に十分な照射が可能で、周囲への影響が少ないのが特徴であり、従来の外照射より治療効果の向上、晩期放射線障害の軽減が可能です。わが国では本治療は2003年ころより普及した、比較的新しい治療です。
これには現在2つの方法があります。いずれも保険適応の治療です。

A)ヨウ素による低線量率組織内照射照射:
ヨウ素と言う線源を前立腺内に永久的に埋め込んでしまう方法。

B)イリジウムによる高線量率組織内照射(一時留置法):
イリジウムと言う線源を一時的に挿入し、治療が終了すれば線源を抜き去ってしまう方法。

それぞれ特徴があり、治療法や治療スケジュール、適応症例が多少異なります。また、放射線外照射を併用する場合もあります。
組織内照射の一般的な特徴を示します。
【利点】
  1. 入院期間が短い
  2. 尿失禁が手術療法より少ない
  3. 性機能障害が手術療法より少ない(なお、内分泌療法併用の場合、併用期間に性機能障害は生じます)
  4. 重篤な晩期放射線障害は通常の外照射より少ない
  5. 社会復帰が早い
【欠点】
  1. 治療後の一時的な尿閉(尿意があるも排尿できないこと)(10%未満)
  2. 晩期放射線障害(直腸出血、膀胱尿道出血は<10%、尿道狭窄は数〜10%程度、直腸尿瘻・直腸潰瘍はまれ)
  3. 射精障害(射精時の痛み・射精感はあるが精液がでない)
  4. 麻酔が必要
組織内照射を受けるためには以下の条件を満たすことが望ましい
  1. 治療に対して十分な理解
  2. 治療のための体位がとれる
  3. 重篤な全身疾患がない
  4. 他臓器のコントロール不良の癌がない
  5. 骨盤内への放射線治療の既往がない
  6. 骨盤内手術の既往がない
  7. 前立腺肥大症に対する手術既往がない(尿失禁のリスクが高くなる可能性、治療に十分な線源が挿入不可能な可能性)
  8. 前立腺内に高度な石灰化がない(高度な場合は穿刺が困難)
  9. 前立腺体積が大きくない(30ml以下が目安:大きな前立腺の場合は治療に十分な穿刺困難な場合があり、内分泌療法で縮小を図って施行を検討)
  10. 高度な排尿障害がない(治療後尿閉や症状の悪化が持続する可能性あり)
  11. その他診察医が不適当と判断する身体条件がない
  12. 直腸癌・膀胱癌などがない

A)ヨウ素による低線量率組織内照射

ヨウ素という比較的弱い放射線をだす小さな線源(長さ約4.5mm、直径約0.8mm)を前立腺内に埋め込みます。
方法は外来にて治療に先立って経直腸エコーで前立腺の大きさなどを観察し、埋め込む線源の部位、数を予定します。後日、入院の上、全身麻酔または半身麻酔(腰椎または硬膜外麻酔)をかけ、前述のごとく会陰から針を前立腺に刺し、事前に予定した部位に線源を順次留置していきます。治療時間は麻酔時間と合わせて数時間程度です。前立腺の大きさにより異なりますが、数十個の線源を留置することになります。治療後1ヶ月後ぐらいにCT などにて線源の挿入状態などチェックします。


適応は癌が前立腺内に留まっている可能性が高い方で、前立腺外に癌が広がるとその部位に線源を挿入できないため治療効果が落ちる可能性があります。よって、低リスク群および一部の中リスク群では単独治療を行い、中リスク群、高リスク群の方はヨウ素による低線量率組織内照射に加え、外照射及び一定期間の内分泌療法を追加していることが多いようです。  
特徴としては単独治療では放射線晩期障害としての下血や血便などの恐れは最も低率です。治療後は排尿困難や頻尿などの悪化が生じますが、1年ぐらいの経過で治療前の状態に戻ってくることが多いようです。
「治療後の生活上注意および制約」
低線量率組織内照射では線源が体内に残ります。治療後体外に放出される放射線は極微量であり、周囲の方への影響はほとんどありませんが、1年以内には生活上の制約や規則があります。
  1. 線源が脱落し、排尿や射精と共に体外にでることがあります。治療後1年以内の場合は直接線源に手で触れず、拾い上げ、瓶などに密封して担当医に届け出る必要があります
  2. 性交渉は治療後4週間禁止です。また、線源脱落の可能性より1年間はコンドームの使用が必要です。
  3. 新生児や妊婦との接触は2ヶ月程度避けたほうが良いとされています。
  4. 万一、1年以内に死亡された場合は解剖にて前立腺(線源と共に)を摘出し、線源の廃棄が必要です。
    よって、ご家族の方もこの事を承知していただく必要があります。また、1年以内に他の手術を受けられる場合は担当医への連絡が必要ですが、前立腺周囲の手術でなければ、当該術者や看護師が過度の被爆することはありません。
  5. 以上のことより1年間は本治療を受けられたことがわかる患者カードを常備することが義務付けられています。

B)イリジウムによる高線量率組織内照射(+外照射)



治療手技はほぼ低線量率組織内照射と同様ですが、この方法は刺した針穴からイリジウムという線源を出し入れして前立腺内に照射を行う方法で治療後には線源が体内に残らないのが特徴です。よって、治療後の生活上の制約はほとんどありません。ただし、外照射を併用して治療することがほとんどです。
組織内照射は通常短期の入院で施行しています。施設によって異なりますが、治療そのものは数時間で終了することが多いです。治療中は会陰部より10数本の針を刺したままの状態であり、治療後、針を抜去されます。
 特徴としては放射線照射量が多く、やや進行した癌でも根治できる可能性が十分あります。放射線晩期障害に関しては処置の必要な下血や血便などの頻度は少ないですが、他の放射線治療に比べ、尿道狭窄がやや多く発生するようです。